| レシプロ型のほとんどのオートバイエンジンのピストンには、リングが何本かはめられている。
このリング、エンジンをチューンする人にはものすごく気になる要素として、よく見て頂きたいのだが、あまりこのあたりに気を配る方はおられないようです。(そりゃ、一流の所やメーカーや、ピストンリング製造会社は別ですよ、専任開発者が何人もいたりしますから)
頑張っているのだが、なかなか認めてもらえない悲しきリングなのでした。
あっしのFZRにもついています。
FZRがウチに来た当初、すぐに交換となったのがこのあたり。
シリンダーには水が入っていたために内壁は錆つき、その状態が判らず無理にクランキングさせたので(一応中がどうなっているか判らなかったので、点火系の様子も見るためにプラグも抜きましたが)工場出荷時につけてもらっていたデフォの腰上は、一撃で駄目になってしまいました。(クランクシャフトやミッションの一部重要箇所は、偶然にも無事でした。このあたりはさすがジェネシスエンジン、タフです)
で、どうせやるなら以前からためしてみたいコトも考えていたし、実験とデータ取りを兼ねて燃焼室をある程度造り直すか……ということで、適する会社にピストン、ピストンリングセット、10年以上寝ているスリーブ素材等の製作を頼んだのでした。
それらのスタッフさんと知り合ってから、かれこれ10年以上経っていたのだ。
この部分は上手くすれば必要ないのでは? とか、こんな機能があると良いかも、など打ち合わせ。
自動車製造メーカの人達とは違った見地での、変なゼミみたいな感じです。
専門的な熱処理とかあっしにはよく理解出来ませんでしたが、かれらとしては大きなお金が絡まないのと、かれらも会社には内緒での実験なので、時々ですが楽しく覗かせて頂きました。(最終責任はあっしのFZRに掛かって来る訳でした)
あっしはその際にピストンリングの硬さと、新たに入れるスリーブ材の相性を手持ちの過去のデータから、この排気量に一番合い易い物として選んだりしたのでした。
おかげで、FZRは現在エンジン改装後の積算距離は約8万km。
もちろん最初は、何が起こるか判らない素材の組み合わせを実験してみないかとか言われましたが、あっしのFZRはそんなに速くない方がありがたいのだ。
その後、過回転によりバルブ回りに些細なトラブルもありましたが、その都度細かく合せて行き、改装後は部品交換をしておりません。
FZRは、実質的にはほぼノーメンテでここまでやって来れました。
でも、コレだけエンジンをやっても排気量が大きく拡大されている訳でもなく、材質も今では普通に手に入るモノですし、FZRはデフォのFZR250と大きく違ったエンジンになってしまっているというコトは無いのでした。
基本的には耐久力を含めて構造は激変されていないので、FZR250からは外れない範囲にいると思います。圧縮だってクランクメタルを守るためデフォより少し低いのだ。
前回エンジンを開けて様子を見たときに測った値では、予想した通りの減り方をしておりました。
順当にエンジンは、走行距離なりの減り方をしていたのだ。
ただし、こちらをご覧の方々はご承知のとおり、実験しながらもオイルには常に細心の注意をしていたので、ごく普通に走ったFZR250とFZRxでは、倍くらいの消耗耐久力は発揮しております。
で、ピストンリングの入っている溝。
この溝には一番上と2番目の溝には、厚めの爆圧に耐えるしっかりしたリングが入っております。2ストも4ストもこのあたりはほぼ同じです。
ただし2ストエンジンには、リングの切り欠きがポートに引っ掛る位置に来ないようにしてあるピンが、溝内に1ヶ所打ってあります。
4ストのエンジン用のピストンの3番目のリング溝には、油掻きリングと呼ばれるセットが入っております。
構成内容は2本の薄いリングと、その間にサンドイッチされているエキスパンションリングというモノ。
油掻きリングは、クランクシャフト側から噴射ないしは飛沫にて潤滑・排熱等のためにシリンダー内壁に附着したエンジンオイルを、薄いリングで掻き落とそうというモノでした。
掻き落としながらも、ある程度管理された量を、ピストン内側からこの溝に穴が開いていて出し入れしていたりもするのですけど。(リング溝穴です)
で、この油掻きリングの状態に、何らかの状況(減るとか張力減退とか、合い口の位置が合ってしまうとか)が起こると、シリンダー内壁に附着したオイルが掻き落とされなくなり、オイル上がりという状況が発生するのでした。
オイル上がりが起きたエンジンは、始動と同時に4スト車でも2スト車のように排気管から白煙を、もうもうと立ちこめさせます。
近くや後方にいれば、『お前のバイク、オイル臭い!』と言われます。
排気管内もオイルでベッタリ。
リングは非常に硬い金属で、ピストンは柔らかいアルミ材です。
使っているうちに、リングが溝を掘り拡げてしまうのでした。
オイルが物凄い性能だった場合は、その度合が緩和されますが、それでも少しづつ溝を掘り拡げ……いずれはどんなエンジンも過走行になれば天寿を迎えます。(大抵はその前に他の部分が壊れます)
ピストン自体の構造があまりに酷い状況になると、そのリング溝からクラックが入り、ピストンスカート部がクランクシャフトの方に落ちるという「棚落ち」「ピストンの輪切り」という状況になります。
ごくまれですけど、酷使された1気筒あたりの排気量の大きなエンジンでは見られました。
こうなると、クランクシャフトに落ちたピストンスカートが粉砕され、エンジン内部に異物として拡散され、色々な細かなオイル径路に入りこみ、エンジンパーツは瞬時に駄目になります。
その前段階の兆候はあるのですが、非常に判りにくいのでした。
他にリング溝で起こるトラブルは、リング溝とリングの間にカーボン(不完全燃焼エンジンで良く見られる混合気の燃え残りスス)を噛みこむと、同じような状況になります。
カーボンを挟み込んだ周辺では、油掻きリングが上手く働けず、その周辺からオイルを吸い上げてしまうのでした。
……白煙です。
燃焼室に過度のオイルが混入していれば、さらにカーボンの堆積は促進され、バルブシート等にもカーボンを噛みこんで圧縮漏れ。
状況が酷くなればバルブシートの真円が狂い、吸気バルブならばバックファイアー等でキャブをマニホールドから吹き飛ばすとか。
排気バルブでも圧縮漏れが起ります。
排気脈動を使いながら効率良く排気しているエンジンでは、結構重大な事態になるのでした。(どんなエンジンでも今はそうなってます)
これらの大元の原因で結構多いのは、混合気のオーバーリッチ。(薄過ぎるよりは良いですけど)
吸入される空気量に対して、混合される燃料が多過ぎてうまく燃え切らず、燃焼室に大量のススが発生し、ピストンリング溝にも溜ります。
このススの量が、エンジンオイルの清浄作用より多くなると、燃焼室全般やリング溝にカーボン堆積となったりするのでした。
副次的に爆圧によりリング方向に侵入した未燃焼のガソリンやススは、シリンダーに形成されている『クロスハッチ』というシリンダー表面の潤滑オイル溜まりを削り落としてしまい、シリンダーは鏡面研磨状態で、オイルによる潤滑・排熱・清浄・気密保持が出来なくなります。
派手に焼付きます。
燃焼中のガスがクランクケースに落ちるので、オイルもすぐに真っ黒け。
ストローク中のピストンがシリンダーのどこかでロックして、コンロッドが折れて……それでもクランクシャフトは回るので、クランクケースから折れたコンロッドが「ハロ〜! ボクがコンロッドだよ!」ちわ〜ッス、となるのでした。
躾の悪いエンジンになると、腰上を蹴り飛ばします。
ケースが割れてオイルをブチ撒け、それを踏んで後輪から転倒。
……イタいです。
回転数が高い時でクランクシャフトを軽量化し過ぎていて、強度が落ちていたりすると、クランクシャフト自体が折れるコトもあるかも(まぁ、考えられませんが)カムチェーンくらいは切れるか。
いずれにしてもエンジン様には辛いことなのでした。
結果、キャブのセッティングは耐久性という点ではものすごく重要なのでした。(ココを切り詰めるチューン方法が多いかなぁ)
デフォのまま乗っていても、ニードルジェットやジェットニードル、モノによってはノズルやスライドバルブ等は消耗します。エンジンの要求混合比が合わなくなります。毎回合っていない混合気を送られるエンジン様はたまったものじゃございません)
キャブ(含むassy.)も消耗品なのでした。
改造していないオートバイでも、このあたりは気をつけましょう〜。
中を見ることができない燃焼室では、様々なことが起っているのでした。
燃焼室の一部を形成するピストンリングと、それらが収まっているリング溝のメンテナンスは実は結構重要なのでした。(減った場合は交換しか手は無いのです)
高圧縮化とか吸排気装置(プログラムも)の変更等、いじったエンジン(吸排気を含む)なら1000〜10000kmごと、デフォなエンジンでも30000〜50000kmごとくらいは点検清掃した方が良いかも。
特に、頻繁に加減速を楽しまれてスロットルを大きく開ける方や、低回転でいつまでもズブズブ走り続ける変速回数のルーズな、回さない方は要注意かも。
2スト車は油掻きリングはないので、この心配は半分で済みますね。でも……。
いずれにしてもエンジンオイルには気を遣ってやったほうが良いです。
難しかったかな……なんとなく判りますよね……。
それほど大したことは書いていないので、適当に読み飛ばして下さい。
本当はもっとたくさんあるのですが、あっしが昔お世話になった修行時代のオートバイ屋さんが全焼失してしまったので、今から見舞いに行かねばなりませんので、この辺で。
あっしが行って、一体何が出来るかは判りませんが。
皆様も、燃料系のラインや錆びている燃料タンクは、部品があるうちに交換もしくは修理をお勧めです。つか、命令。
ガソリンはものすごく激しく燃えるのだ。
狸穴太郎 拝
(今日、FZRは休暇をとっておりますが返上だな……) |