Vol.433 アファレンテーション 2003-11-21

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 皆様、いつもお世話になっております。FZRです。
 今日は雨降りですがマスターはお仕事。
 わたくしはアジトAのPにて、日がな一日をジッとしておりました。
 何〜もすることが無いので、マスターと走るようになってからずっと考えていたことをちょっと調べてみました。

 わたくしはオートバイですので、走る際にはマスターがバランスを取りながら走らなければ倒れてしまいます。
 もちろん倒れないように、わたくしとしてもタイヤやサスペンションで頑張っているのですが、バランス感覚自体はマスターの感覚器官をアテにしなければなりません。
 中々コレが難しいようです。
 わたくし達オートバイは、真っ直ぐ走っている時には車体を立て、曲がっている時には曲がる方向に車体を倒しながらその量を基準に曲がります。
 普段の曲がり方では、なるべくハンドルは自由にして頂いて、車体の倒れ込みの深さ角度により対地キャスター角が作用する分だけ自然と与えられるハンドル切れ角で曲がります。(一応対地角センサは付いてます)
 この曲がり方をフリーステアと言うそうです。
 難しい内容を加えると、前後の接地点の接地面形状とか、前後の面積比と重量配分とか、スリップアングルの差で回頭する量が決まるとか、慣性モーメント等の要素もありますし、いずれ実験台にされそうな2WDだとトルク配分等も……わたくしでは上手く表現出来ないのでココでは割愛させて頂きます。(済みません)
 曲がっている時のわたくし達のお仕事は、各マスターにどのくらい傾斜しているかを正確に伝えながら、前後のサスペンションを使ってタイヤが跳ねないようにグリップをなるべく一定に保ちつつ、路面の凹凸をライダーやフレームに伝えないように安定させていることがお仕事です。
 たまには突発的に現れた障害物体を避けるために、曲がっている方向を一気に変更する場合もございますが、その際にも行うことは同じです。
 そこで、わたくし達を操縦するマスター達の、個体による操縦能力のことが気になります。
 各人の能力の高低により、わたくし達がどんなに頑張って高性能なオートバイになっても転んでしまうのでした。
 当然わたくし達も、年式や仕様や排気量により、マスター達の入力に対してお応え出来る範囲は高低があるので大きなことは言えませんが、普通に公道を走るだけならば問題は無いように造られております。
 ですが、マスターとなった方の能力いかんによっては、わたくし達の能力を発揮するまでもなく倒れてしまったり、事故に遭ったりすることがあるのでした。
 オートバイである以上コレは止むを得ないことで、悲しいことですが致し方ありません。

 マスター達のバランス感覚にも個体により、若干の差があるようです。
 長年オートバイに乗っている方と、昨日初めてオートバイに乗られた方では経験的にも身体の反応回路的にも違いがあって当然です。
 それとは別に、後天的にご自身を鍛えて絶妙なバランス感覚と反応回路を身につけた方も極めて僅かですが、お見受け致しました。
 その手の方達に共通して起っている現象は、わたくし達の車体の上で過度に大きな動きをしないことです。
 手足の動きにも無駄がなく、遅滞無くスムースに動いております。
 そう言うマスターに乗られた場合、わたくし達は速度も一定でバンク角も頻繁に修整されることなく一定で走れます。
 とても動きやすいです。

 自分のマスターのバランス感覚が発達するということは、わたくし達と致しましても痛い思いもせず、とてもありがたいことなのでした。
 ヒューマノイドや人間の身体の中には、わたくし達には無い大規模高密度なセンサーとそれらを伝える入力用神経系、予測まで出来る解析装置、出力用神経系、そして実際にわたくし達を操作する複雑な駆動部品を搭載されているとか。(他にもっと細かな機能をデフォルトで持っているようですが……割愛)
 それらの動かし方は、大抵の場合上手な方もヘタな方も一様に同じですが、その動かし方と動き方の精度が違うのでした。
 なぜ動かし方が違うのか……不思議ですねぇ。

狸穴:「だたいま」
FZR:「あ、マスターお帰りなさい」
狸穴:「なにやってるの」
FZR:「ヒューマノイドや人間の身体の造りと機能について
    勉強しておりました」
狸穴:「ふ〜ん。で何か判ったか」
FZR:「マスター達がわたくし達の操縦の際に一番優先させ
    る能力は『バランス感覚』だということを学びまし
    た」
狸穴:「こりゃまた……エラク突っ込んだ所を」
FZR:「先日マスターとご一緒した目黒区美術館の近くの交
    差点で、何にも当っていないのにCB400SFさ
    んが転んだ時の様子を考察しておりました」
狸穴:「アレは……ライダーのミスだな。横断歩道側でしゃ
    がみこんだ女子高生のスカートの中に気をとられて、
    奴は曲がる方向を見ていなかった」
FZR:「ですから、バランスが崩れていたと考え、乗り手の
    バランスに頼るしか無いわたくし達の立場から、人
    間のバランス感覚を鍛える方法はないものかと模索
    しておりました」(マスターもパンツ好きですか)
狸穴:「……難しいねぇバランス感覚の鍛錬は」(たまにね、
    商売半分かな。撮影の際のポージングとか)
FZR:「マスターはわたくしに乗る時には『今のバランス感
    覚で充分』と、お思いですか」(わたくしでは履け
    ませんわ)
狸穴:「まぁ、普通に走っていてコケないし足りているとは
    思うが……でも今よりもっと高度化出来るならば、
    鍛えてみたいと思うのもあるな」(イイの、心配し
    なくても)
FZR:「その鍛え方や、ヒューマノイドや人間の仕組みを勉
    強しようと思いました」
狸穴:「なんつ〜オートバイだ」
FZR:「CB400SFさんは車体を守るフルカウルも無い
    ですし、相当痛そうでした。それに鍛え方をわたく
    しが申し上げればマスターも助かりますわ」
狸穴:「そか。んじゃ、FZRに対して使用している2%の
    作業領域を、しばらくの期間60%まで拡大する」
FZR:「ありがとうございます」
狸穴:「で……学位でも取るの?」
FZR:「それもイイかも……でもわたくしはオートバイです
    から学位は頂けませんし、頂いても役に立ちません
    わ」
狸穴:「だな、でも何か思いついて救われるライダーもいた
    りするかも」
FZR:「頑張りますわ。ついでにマスターの神経系と筋骨格
    組織の一部もお借り出来ますでしょうか」
狸穴:「どぞ、ご自由に」

 ということでバラしてちょっとお借りして来ました。
 バランスはいつ必要になるかというと、不安定な所では常時必要になり、倒れないように安定させるための機能で、それはわたくしも同じなので判ります。
 バランスを司っている所は中枢神経のようです。
 中枢神経はわたくし達には搭載されておりません。
 マスター達の中枢神経は、身体の各感覚器官(内耳とか関節胞とか皮膚に掛かる圧力差とか色々です)からの刺激を受けて起動しているみたいです。
 この刺激のことをアファレンテーションと言うそうです。
 アファレンテーションは、求心性の神経インパルスのことで、末端の受容器から脊髄・脳幹、小脳、大脳に向けて発せられる電気信号でした。
 受容器は大別すると2種類あって、機械受容器と侵害受容器。
 機械受容器は、関節位置や振動や温度の刺激を担当。侵害受容器は痛みに対するセンサーでした。
 機械受容器は、わたくしのEXUPの開閉量を常時関知している妄想回路と近いですね。
 それらを使って、アファレンテーションを中枢に送っているようです。もの凄いデータ量です。
 マスターのポジトロニックブレインの基本中枢も大変なんですねぇ……
 わたくしにはまつ付いていない、耳や目や鼻も受容器です。
 耳にはバランスや加減速を感じる前庭器官がありました。
 基本的にはこんな感じでバランス感覚を機能しているらしいです。
 ……コレってある程度解析が進むと、マスターの運用マニュアルになりますね〜

 で、マスターがどのようにして姿勢コントロールをしているのか。
 マスターの神経系は、アファレンテーション起動型のシステムです。
 わたくしを動かす際に使われる筋骨格系に指令を送って、身体を動かすためには先程拝見した中枢神経が指令を出す必要があるようです。(遠心性=信号出力?)
 ところがバランスと言う事象に関しては、受容器からのアファレンテーション(刺激)がなければ中枢神経は作動しませんでした。
 コレではわたくしも倒れてしまいます。
 で、受容器に外的刺激があるとアファレンテーションが起り、マスターの中枢神経はバランスを取る行動を開始するための出力信号を身体に指令しておりました。
 コレでわたくしも倒れずに済みます。
 でも物凄いデータ量をリアルタイムで処理していたんですねぇ……コレ欲しいかも。
 わたくし達が路上に滴れていたオイルを踏み、前輪が派手にスリップした時にバランスを取りながら、予測されるスリップ量を弾き出して再グリップの際に必要な姿勢とトルクをコントロールするための指令は、マスター達の保有するこの中枢神経から出ていたんですね。
 その時の受容器は、掌やステップを踏む足の裏とかも激しく活動しているようです。
 イイなぁ。
 でもこの神経系、受容器に問題があると、受容器の感度低下→アファレンテーションの低下→中枢神経の機能低下→信号出力低下→筋骨格系の機能低下→受容器の感度低下……と言うスパイラルに入るようです。
 継続的な痛みである腰痛とか、頭痛や腹痛とか、膝の痛みなども、アファレンテーションの低下の原因との一つだそうです。
 健康管理(=メンテナンス)が必要なんですね。
 わたくしと同じ所は、動かさないでいると障害の元になるということです。
 長期放置されたり、オイル交換をサボられたり、チェーンが錆付いて弛んでいたりステムやホイールのベアリングにガタや潤滑切れが起っているのと似てますわ。
 でもマスター達の身体はもう少し複雑に出来ていて、匂いや光を使ってアファレンテーションを発生させ、中枢神経で相互に関与し合う別機能を裏側から活性化する方法も可能なようです。
 痛い所をグリグリ動かして活性化&修理をするよりも、匂いや光などの優しく強弱のコントロールがしやすい刺激を使った治療方法もあるようです。
 結構な自己修復調整装置ですね。
 コレならば交換しなくても治療による再生が可能です。
 わたくし達の場合は交換が出来ます。どちらが良いかなぁ……
 まだ一部しか判っておりませんが、こんなに複雑な身体をマスター達は制御していたのでした。
 ちょっと驚きです。
 この機能を上手く使えば、バランス感覚やそれを実行する身体の使い方も高度化出来そうです。
 以前マスターが一度だけですが、バランス感覚を強化するためにためしてみた直径50cmくらいの強化風船ボールのことを思い出しました。
 ただボールの上に乗って座っているだけなのですが、ボールは上に乗ったマスターを勝手に動かします。
 マスターは落ちないようにバランスを取っていましたが、ものの6秒ほどで派手に落ちました。
 脚を床に着いて乗っていても少しづつ前後に勝手に動いて、安定はしておりませんでした。
 何もしていないのに、マスターは息が上がり始めて発汗……情けないですね。
 このボール、バランス感覚を研鑽するには持ってこいです。
 これ以上のモノはございません。
 身体の普段動かしていない筋(抗重力筋や姿勢筋を含む)や神経系まで動員して、落ちないようにしておりました。
 普段の生活からこのボールに乗っていれば、自然と高度なバランスを保てるようになります。
 Webの閲覧やメールの受信をしている僅かな時間だけ乗っていても、十分に効果はあると思います。
 大きく動けば大きな揺り返しが来るし……小さく動いてはバランス取れないし。
 常に自分の乗っている位置や角度を知覚して、ボールが転がって行かないように身体を前後左右に正確に動かしてバランスを取らねばなりません。
 空間認識力も高度に強化しないと乗れないのでした。
 空間認識力が強化されれば、わたくし達のメンテナンス(分解組立の際の手順理解)やライディングの際のライン選択等の精度や危険予知にも関ります。
 ボールの扱いはわたくし達の扱いと似ておりますわ。

 その時のマスターの身体に起ったデータでは、バランスを取るためにかなりの量のアファレンテーションが発生しておりました。
 ポジトロニクブレインのログでは、データの処理に準危険信号が出るほどのデータ密度を記録しております。
 バランスを取るために必要な筋や関節が動くと、筋紡錘や関節包や靭帯の関節固有受容器が発火して、脊髄へとインパルスを送り脊髄を通って上位の中枢神経にまで届いております。
 これらの刺激は様々な径路を走って中枢神経に達するのですが、意識下での位置覚と無意識下での位置覚を別経路で中枢神経に伝達。
 それを受けた中枢神経では視覚、聴覚、位置覚から最適な動きを計算して、また別経路を使って脊髄前角へと指令を送るようです。
(この辺はわたくしの理解力では詳しく判りませんので、各部の名称や径路の呼称はご要望がない限り割愛させて頂きます。御免なさい皆様)
 そしてマスターの脊髄前角で指令は統合され、α運動神経を経て各筋へと最終指令が下されました。
 こうして筋が適切に稼働して、関節を動かしバランスを取ることで、転がろうとするボールの上から落ちずに座っているのでした。
 これらの動きは『反射』と呼ばれる動きだそうです。
 ……ボールから落ちてしまったわたくしのマスターは、反射が低下しているのでした。
 腰骨盤部の腹筋群・殿筋群(要するに内蔵を納めている腹腔のことでパワー・ハウスと呼ばれるらしいです)も機能低下です……

FZR:「マスター、大変ですよ!!」
狸穴:「困ったねぇ」
FZR:「わたくしに乗る前にもう一度ボールに乗られた方が
    良いのでは」
狸穴:「だなぁ……ガッカリした」
FZR:「左肩のこおろぎ回路でも、同じ内容を記録してまし
    たわ」
狸穴:「なんとかせねば……ボール、輸入するか」
FZR:「早期のうちに復旧された方が宜しいかと思いますわ」
狸穴:「んじゃ、そうする。でも、他のライダー達も同様に思
    い当たるかもね」
FZR:「……そうですね。街で見掛けるライダーさんのほとん
    どがそうです」
狸穴:「だから事故が起ったりするのか」
FZR:「わたくし達はマスター達の操縦練度によって、良いオ
    ートバイになったり悪いオートバイになったりします。
    お鍛え下さい」
狸穴:「……応」

 マスターがこのボールに乗ることで、実際にわたくし達オートバイに乗る時のようなたくさんのアファレンテーションが発生します。
 反射や姿勢制御に必要なバランス能力のトレーニングができるようです。
 ですからボールに安定して乗れれば、ライディングでかなりの上達が見込める結果となりました。
 まだまだコレはホンの一部ですが、ボールの使い方は物凄くたくさんあるようです。
 いずれまた皆様からのご要望がアレば、詳しくご紹介出来ればいいな〜、と思います。(わたくしも少しは知っているのでした。マスターで実験してから……)
 コレもマスター改造計画の一貫なのでした。
 ざっとお見受けした所では、プロライダーでも個人ライダーでも、必要な要素をまだ鍛えていない方がたくさんいるようです。
 生き残ったり勝つために、転んだ方もまだ転んでいない方も上手くオートバイに乗るために、お鍛え下さい>皆様

FZR:「次回はこのボールさんと人体模型君にもご登場頂き
    ましょう」
狸穴:「FZR先生、こりゃまた厄介な組み合わせで……」
FZR:「大丈夫ですわ。収拾がつかなくなったら、わたくし
    が兜博士の講義を聴きに行きます」
狸穴:「そか、行ってらっしゃい〜」

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