今回のお題はHD。
HD=ハーレイ・ダビッドソンさんなのでした。
ハードディスクとか、ハイパードライブ航法とかじゃないのです。
ひと月ほど前に、いつものように、き〜氏の所でFZRの点検と季節なりの調整をしてやるか……と思い一息憑いていたら、ア太郎號(暴れ者SR500改)のご主人から旧式のPHSに電話が掛って来て、ある特機なHDを造ってくれとのこと。
ア太郎號が暴れ過ぎて手に負えなくなったのかと訊いてみると、違うと言う。
んじゃ、ア太郎號に何かご不満でも? と訊くと、全く不満はないとのこと。
……なんでHDなのだろうか?
まぁ、細かい理由は無いそうだ。
少し前にHDのスポーツスター1200を買おうと思ったのだが、試乗してみると自分のSRの方が軽くて全然面白いとのことで、結局HDの乗ることはやめたのだが、ある映画にでて来た、HDのことが気になって仕様がないとのこと。
で、そのHDに乗りたいらしい。
まぁ、何に乗っても楽しいだろうが、その映画のスタントマンさんが撮影時に全開でぶっ飛ばす乗り方は、全く同じ固体を持って来てもライダーの性能が違い過ぎるので出来ないのである。
でも、乗っている自分が安全圏でそう感じられるような個体を(操縦性能の一部としての演出を含めて)造ることは、HDのFXRとかVロッドをベースにすれば出来る……。
で、デザインも含めて一番近いのはFXR。
FXRはあっしが前に乗っていたFXRSとほぼ同じ車体なので、慣れたモノです。
どこをどうすれば良いのか悪いのか、散々やった車体なのだ。
要求はハッキリしている、で車体の素性は判っている。 ア太郎號のオーナは、あっしがオートバイ屋さんをやっていた時に、面倒な修理や競技車両の調整の仕事は全部やめて販売だけに特化した商売をしようかなぁ〜売りっぱなしで丸儲け。なんて考えていた時に、いろいろお世話になった方なのだ。
この人、麻酔と肛門の専門医で、様々な患者さんを修理して来ている。
当時はまだインターンさんで、病院一軒でひと月3万円の安月給で3件の病院を掛け持ちし、毎日の睡眠時間は2時間ないと言う生活をしていたのでした。
そのお供がア太郎號。
ある豪雨の日、ア太郎號が道端で突然壊れた。
目の前にあったのが、あっしのお店だったのでした。
原因は、オイル交換時期を逸した状況下でのフル稼働。
過走行。
タイヤも擦り切れひび割れて、スポークも折れ、ブレーキシューもあと1ミリ、エンジンからは破壊初期に出ている異状振動……。
満身創痍でした。
でも、患者は先で待っています。
とりあえず1週間預ることにして、当時あっしが乗っていた下取り代車のGX500。
GX500が戻って来た時には2000km走っておりました。
果たしてSRでこの使用条件を満たせるのか……?
SRX600とか、FZR400−1WGとか、TZR250−1KTに買い換えを薦めるも、このSR(ア太郎)が良いと言う。
自分のお供のSRが一番信頼出来るのでした。
で、もう+2週間お預り&車検。
ア太郎号に訊くと……
ア太郎:「ウチの先生はeazyな所もあるが、18時間に及
ぶ手術をこなしてまた次の病院へ行って、4時間の
手術をしたりしている。あっしはその間、大きな総
合病院の守衛室の横で雪が積もろうが、日に焼かれ
ようが、先生の戻りをジッと待っております。今修
理して頂ければまたお仕え出来る。ウチの先生は、
そのうち世界一の肛門科の先生になる筈だ。だから
外観は汚くなってもまだお仕えしたい」
と、言う。
あっしもオートバイ屋になる前は、ワケあって医者になることをちょっと考えていたりしたのだが、日本のインターン制度に怒り、やめたのだ。
その世界で今頑張っている奴のオートバイがそう言うのならば、可動部分のステムやアームピボットから全ワイヤー、腰上、キャブ、電装系、全部を直しました。
時効だから言うが、フレームの熔接補強やセンター出し、ブレーキドラムの改良も内緒で全部やりました。
知り合いの内燃機屋に訳を話すと、燃焼室形状を変えればちょっとタフになると言うので、ロハでやって貰いました。
バルブのシートリングとガイドもある材料で作って貰いました。
あっしも良い勉強になったのだ。
後日オーナーがア太郎号を受け取りにきた時に、過酷な労働条件下の事を話すと、
オーナー:「医者は治して当たり前で直らなかった怒られるもん
ね」
狸穴:「オートバイ屋も同じだよ。壊れりゃ文句言われる」
オーナー:「でも中々直らない患者もいます」
狸穴:「お互いに頑張りましょう〜」
オーナー:「ですね」
と言うことで、ちょっと刺激をウケてちゃんと修理もやるオートバイ屋になったのでした。
オートバイ屋もお客の命を乗せる乗物に手を付けるのだ。
狸穴:「FZRや《秋水號》や《弐號》、FZR600xx、
FZR1000x、GXxx、ディバージョンもそ
う言う訳でお世話になっているのだぞ」
FZR:「はい。マスターが売るだけのオートバイ屋さんをや
っていたら、わたくしは再生されることも無く、き
っと解体屋さんの地面の廃油にまみれて雨に打たれ
て倒れてましたわ」
狸穴:「結局、後年にはオートバイや業界から飛び出しちゃ
ったけどね」
FZR:「そのへんは、ヒューマノイドなマスターの生態です
から……」
もっとも、このような方ばかりがお客さんじゃなく、普通に高校生や大学生の期間だけライダーをやって終わる方もたくさんおりました。
FZR:「それからどうなったのですか」
狸穴:「ア太郎号はその後、更に過酷なインターン期間を共
として一緒に乗り切ったのだ。で、数年前にはFZ
Rにも手伝って貰って心臓移植をして、今でも彼の
地で仕えている」
FZR:「……凄いですね」
狸穴:「実は日本の医療技術を支えた、見上げたオートバイ
なのだ」
FZR:「FXRはその方のHDだから造るのでしょうか」
狸穴:「……かな。今も患者のために独身で頑張って一番に
なる人のためだ。そのくらいのオートバイ家族がい
ても良いんじゃないか」
FZR:「……ご要望は」
狸穴:「多岐に渡る。FZRも頑張るように」
FZR:「はい」
狸穴:「同時期に《弐號》の一次側の変速ギアも揃ったし、
FZR600xxのカウル問題にもカタがつきそう
だし、2台の仕上げも同時に進めるから、年末まで
はFZRも大変かも」
FZR:「……ヘッドが減ったわたくしで大丈夫でしょうか」
(マスター、FZR600xxさんのPの家賃が未払
いですわ)
狸穴:「そだねぇ……走行距離は一気に伸びそうだなぁ」
(了解、明日払えたら払う)
FZR:「マスター、わたくしにも予備エンジンがありますの
で大丈夫ですよ」
狸穴:「今のオイルの実験が終わったら、早目に仕上げて積
替えておくか」
FZR:「ですね。わたくしの乙女回路の方は、充分新しいエ
ンジンの調整範囲をカバーしておりますわ」
狸穴:「へ? ……新しいいエンジンヘッドの仕様書見たの
か?」
FZR:「マスターが寝ている間にちょっと拝見しましたわ」
狸穴:「……めざとい」
FZR:「ここは笑う所ですね」わは。
と言うことで、FZRもまた自分のページのお仕事と、輸入書類やパーツを積んで大変になるのでした。
ア太郎號 マミアナ+FZRx |