| FZRの元になったフェイザーと同じ頃に製造されたSRX。
その車体デザインは生き物みたいなペジェ曲線の集合体で構成され、細身でとてもキレイです。
エンジンはシングル600ccと400ccが選べて、ヘッドは吸気ポート2個、排気側もポート2個。
ちょっと個性的です。
FZR:「わたくしがいつもご一緒している、SRX様の事です
ね」
狸穴:「んだ。誰でも乗れるけど乗りこなすと言う事になる
と難しい、奥の深いオートバイだ」
FZR:「……それだけじゃなさそうですが」
狸穴:「いじるにしろ、乗るにしろ常にオートバイ側から乗
り手にセンスを要求している事がデフォルトのオート
バイなのだ」
FZR:「わたくしとは少し違うのですね」
狸穴:「ちょっとだけね」
SRXは強大なエンジン出力がある訳でも無く、最高度の脚回りを装備するでもなく、フレームだって鉄ですが、オートバイに必要な要素の基本は全てを持っていたりします。
デフォルトでは乗ってみても過激な部分はそう多くはありません。
50cc〜1L超のオートバイまでと色々なオートバイを乗り継いで、ある程度ライダーとしての経験が揃い始めて、大人のライダーになる時に乗ってみるにはちょうど良いオートバイなのでした。
もちろんそう言うオートバイは、SRXだけではありませんけど。
なぜだかそのSRXは現在生産されておりませんし、後継機種と言うのも存在しておりません。
排ガス規制とか低コストには耐えられないユーザー層等、色々問題もありますが……。
そんなSRXのうちの一台にマイナーなトラブルが起りました。
排気量は600cc。
内容は燃焼室のカーボンの堆積過多によるエンジンの不調。
内燃機関であればどうしてたってカーボンは発生します。
が、この個体の場合はちょっとその量が多過ぎたのでした。
ピストンヘッドに焼着しているカーボンの一番厚い部分は約4ミリ、天井側の燃焼室の方は平均して1ミリくらい。
コレだけ溜まると圧縮もかなり上がっている筈です。
オクタン価の低いガソリンを使えばノッキングが起きるかも知れません。
溜まったカーボンはバルブに当ったりして剥がれたりします。
焼着したカーボンが剥がれた際に、バルブシートに咬み込めばシート面は傷つきます。
バルブシートに傷が付けば圧縮漏れを起したり……吸気側のバルブも吹き返しの際にカーボンを咬み込みます。
燃焼室の蓋が完全には締まらない状態です。
走行時にはカーボンが欠けてできたギザギザの角が原因で異常高温となれば、燃焼室に吸入された混合気が点火プラグで点火される前に燃焼を始めてしまうデトネーションと言う現象が起ります。
このデトネーションで点火してしまうと点火プラグで点火するタイミングとは時間も位置も設計とはズレますので、強度許容範囲を遥かに越えた爆発圧力が発生したりしてピストンに大きな穴を開けたり、ヘッドガスケットを吹き抜かせたりヘッドの一部を溶解させたりするくらいの凄い力になったりします(熱の影響もあります)。(最近じゃデトネーション爆発なんて燃焼方式もあったようですが……)
危険な状態なのでした。
FZR:「なぜそんなことになってしまったのですか。チョー
クが戻らなくなっていたとか……」
狸穴:「いや、それほど状態の悪いキャブじゃなかったから、
そこまでには至っていなかったよ。チョークも正常
だ」
FZR:「でも、カーボンが溜まってしまったのですか? わ
たくしと同じ4ストエンジンですよね」
狸穴:「FZRと同じ4バルブの4ストエンジンだ」
FZR:「それでは、いずれわたくしも……」
狸穴:「FZRは大丈夫。原因は他にあった」
スロットルワークでした。
SRXのキャブはプライマリーに強制開閉式、セカンダリーに負圧式キャブを使っています。
フライマリーキャブは低〜中回転時やアクセル開度が少ない時に作動。
セカンダリーキャブは急発進や追越し時の急加速を要する、アクセル開度が大きい時にのみ作動します。
このセカンダリーキャブが引金になっていたのでした。
600ccのエンジンが産み出す低速トルクの素早い立ち上がりと、SRXのオーナーの乗り方が上手過ぎて操作に無駄が無く、普段でもスロットルを1/4開かなくても充分間に合う加速を得られていたのでした。
そのため、セカンダリーキャブは、たまにしか混合気をエンジンに送りません。
となるとセカンダリーキャブと燃焼室の間にある空間の第2ポートは、燃焼室からの吹返しの生ガスを燃焼室の吹き戻しにより吸気バルブから溜め込み始めます。
溜まったガソリンの一部は飽和状態をすぐに越えて第2ポート内で液状化し、ピストンの上に液状で流れ込み、シリンダーの油膜を洗い流しながらピストンの上で不完全燃焼を始めます。
濃いガソリンを使って強制的に燃料冷却をする過程と似てます。
燃焼室の一部である吸気バルブのポート側に附着した生ガスは、ポート内でゆっくり煮え始めこれもカーボンになります。
エンジンヘッドをはぐってみると、プライマリー側のポートは凄くキレイでしたがセカンダリー側のポートはカーボンだらけでした……。
カーボンは、主に混合気の不完全燃焼で発生します。
条件が揃い過ぎたのだ。
600cc単気筒で軽量なライダーとオートバイでは、ライダーの技量が高ければ別に大きくスロットルを開けなくても充分な加速を発進時に得られてしまうのでした。
バルブのステムも大量のカーボン堆積です。
このエンジンを直す事になりました。
狸穴:「FZR、またエンジンを内燃機修理屋さんまで搬送
だ」
FZR:「エンジンコンプリートで積むんですか? わたくし
には積み切れませんが」
狸穴:「大丈夫、部材に分けて運ぶから」
FZR:「それぞれの内容は、マスター」
狸穴:「へっど、シリンダー、クランクシャフト(コンロッ
ド交換のため)、右側クランクケース」
FZR:「大変な量ですわ」
狸穴:「だねぇ……シートレールがモげるかも」
FZR:「……でも頑張って運びます」
と言うが、小分けにしたってどうしても重たくなるので、ヘッドだけはFZRで運んであとのパーツは運送屋さんの取り次ぎ窓口までFZRで運んだのでした。
さすがに全部はFZRで運べません。
FZR:「少しの距離でしたが重かったです」
狸穴:「人間一人載せているよりは軽い筈だが、それより重
く感じたねぇ」
FZR:「不思議ですね」
と言う事で、SRXと同じ形式のキャブを装着している車種にお乗りの方は、たまにはスロットルをワイドオープン致しましょう〜。
FZR:「でも、マスター。わたくしのお知り合いのSRXさ
ん達は、かなりの比率でFCRかCRなキャブを装着
されておりますわ」
狸穴:「だな……んじゃ心配する事も無いか」
FZR:「はい、そう思います」
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