Vol.366 歌姫 2003-02-28

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 いつだったかあるスタジヲの中で歌う事を機能とした歌姫がいました。
 以前は人気があり、彼女が出演する番組は高視聴率を稼いでいたようにも記憶している。
 少し他の人達と違って、生き方が不器用ながら仕事に没頭して自分を追い込んでしまう傾向のある方だったような気がする。
 人間用の愛と言う記号を歌う機能を常に研鑽するために、アンドロイドな彼女は自らに対して、少し強い気性と過激なくらい敏感な受容型精神をその細い小さめのカラダに付与されていた。
 人気者で頑張っていた期間はまだ完成度が低く、今思えば本来の機能を開放出来ずかなり無理をして疲弊していたのかも。
 デフォルトでは高性能な分厚い面の皮は持ち合わせていません。

 どの業界にも浮き沈みはあり、その落差が大きい芸能の世界。
 栄枯盛衰はある訳で、彼女にもそのサイクルは訪れました。
 忙しく歌い続け、ちょっと休んだスキに人気は一気に引いて行きました。
 半年ほど休むつもりが長いお休みです。
 その後も浮上しようとするも、波荒く時期も合いません。
 長いお休みには当然慣れていないので、始めのうちの数年は呑んだくれ小爆発を繰り返し引きこもっていたようですが、それにも飽きて次第に休んでいる事に慣れて来ます。
 たまの仕事で歌うも、当時の音は出ません
 カラダも使っていないので少しづつ衰えて行き、彼女の音も次第にスが入り艶が無く散発的になって来ました。
 一曲やっただけでブレスは荒れ、発汗量も酷い。
 歌う機能は完全に錆び、彼女の居場所はもうありません。
 当時彼女を支持した者の中にも見ているのが辛い、という方もいたり。
 彼女自身もその事に気付いております。
 ……古くなって行くのでした。
 当時をナマで知る人は、『もう駄目だな』『名前だけが残ったか』『残念だな〜』とか。
 皆の記憶からも少しずつ消えかけてます。
 そしてしばらく彼女の姿は消えました。

FZR:「マスター、可哀想です」
狸穴:「……コレばかりはやむをえんのだ。毎日新型がたく
    さん出て来るし」
FZR:「せめて、世間を相手にすると言うポジションにいな
    ければ幸せだったのかも。単一志向な日本じゃなけ
    れば、古いモノにも価値が認められたとか」
狸穴:「そうだねぇ。元々は普通の機能しか持たない彼女に
    何かのきっかけで歌う機能を追加したからな……」
FZR:「歌う機能をパージ出来ないのですか」
狸穴:「外せるさ。でも彼女自身がソレを望んでいない所に
    辛いところがある」
FZR:「どうにかならないのですか」
狸穴:「彼女側から依頼された仕事と言う事であれば何かテ
    もあるかも知れないが、基本的には俺じゃどうにも
    ならんよ。彼女自身の問題だ」
FZR:「彼女を支持する人はいないのですか」
狸穴:「まだたくさんいる筈だが、表に出て来ていない」
FZR:「難しいですね」
狸穴:「んだ」

 世間様は常に新しい者を使って世代交代しながら進化して行くという流れがある以上、その流れには逆らえないのだ。
 出目があるとすれば、流れの途中に幾つかある大御所と言う独自の中州のような場所を構築する事。
 初めから中州を使って残るモノもいれば、流れに逆らえず消えて逝くモノもいる。
 大抵の場合は、頑張って人気があるうちに自分の中州を構築して安泰な状態を維持するのだが、彼女の場合はそれをしなかった。
 溜めるとか維持すると言う機能が始めから無いのだ。
 あるのは不安定な精神構造と、強力な増幅機能を備えた感受性と、それを出力する音がメイン機能。
 もちろん溜めるという機能を後付けで搭載する事も可能だが、そのためには何かを取り外さないとならない。
 もしくは精神構造をいきなり高度な安定したものに入れ換えるか……。
 でもそれは出来ません。
 アンドロイドはOSのバージョンアップくらいならば出来ますが、マザーボードを入れ換える程には器用に出来ていないのでした。
 更に悲惨なのは、彼女自身が最近では過去を引きずる事を良しとしないので、曲が始まればいつも生身で無防備です。
 負けると判っていても当って行くのでした。
 真剣勝負だからどこにも余裕を残していない、飼犬には出来ないこと。
 やっている事が身に余るほど凄過ぎるのだ。
 毎回ステージで死に行くようなもの。
 見ている方も、あまりに凄惨なので印象には辛さしか残りません。
 それでも歌う事を止めないのでした。
 まるでひとたびレースとなれば負ける事が許されていなかった、かつてのMV AGSTAのワークスマシンのようなもの。

FZR:「凄過ぎますわ」
狸穴:「だねぇ。俺やFZRにはとても出来ないな」
FZR:「彼女には庇護してくれる方はいないのですか」
狸穴:「いるよたくさん。でも、ステージでは彼女だけだ」
FZR:「あの手の仕事をしている方は大変なのですね」

 その彼女が久々に大きなステージに上がったらしい。
 錆びた身体を全てバラして造り直し、同じ材料を何度も鍛え直して声も当時に近づけて。
 ただ、一度どん底まで落ちた時に底で拾ったものもたくさんあったらしく、久々に身体も動いておりました。
 何を拾ったのか彼女にしか判りません。
 ただ、落ちたことがある者しか持てないモノを得て来たようです。
 落ちた深度が深ければ深いほど、上がるたびに光るモノらしいです。
 外装は少し年式を感じますが以前の彼女とは全く違って見えました。
 ファインダーを透して見るとそれが見える。

 良い歳の取り方をしておりました。
 
 たまにこんな人がいるよね〜、希だけど。
 彼女に合った、大きくなることは無い、小さな中州が出来たようです。
 ちょっと一安心。ガンバレ。

マミアナ+FZRx

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