Vol.349 XT125 2002-12-07

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 FZRで1年ほど前にやった仕事のギャラの一部を少しづつ払って頂いている事務所に、仕事は無いか? と顔を出した帰り、走っていたら一台のオートバイがずっと付けて来るので、様子を見るため渋谷、目白、新宿とただ走ってみた。

 この事務所、子細が色々あって……普通だとこのような状況下ではいつの間にか閉鎖されてトンズラ〜な事が今年は3件ほどあったけど(弱小企業なあっしにとってはかなりデカイ損失です)、ここの事務所のデザイナーさんは仕事も出来るし、あっしの同業者達等にも誠実に対応してくれるので、皆から『俺達も厳しいけどギャラの払いは遅れても待つからやめないで頑張れ〜また良い仕事をしよう』となったのでした。
 こうすれば、敵じゃなくて仲間なのだ。
 一緒に大変な仕事をした事があれば、そのくらい判る筈です。
 別にあっしがお人好しな訳ではないのです。
 彼が商売をやめてトンズラされてはギャラを諦める事になるし、厳しい時期だけど大手の良い筋の仕事をこなして来ている実績を持つ欧米の仕事にも通じているフリーのデザイナーだし、信用するに足るデザイナーが一人減ってしまう方が後々辛い事になるので、厳しいけれどみんなで待っているのでした。
 今回の件も、クライアントの会社の都合で彼が一人で泥を被ったような流れになっているのだ。
 たまには、こう言う人がいます。
 最後に踏ん張れるか逃げるか……大事な所です。
 別な所じゃ、あっしもこんな感じで助けてもらってます。

 追って来るオートバイにわざとミラーを確認しながら走ってる所を見せて走っていると、やっと西新宿の信号で並んで停まった時にむこうから話て来た。

XT:「……ども」
狸穴:「何か用ですか、さっきからずっと付いて来てるけど」
XT:「いえ……閑だったもんで」
狸穴:「そう。……イイねぇ」
XT:「珍しいFZRだから……閑なんすか」
狸穴:「渋谷から憑けて来るから何だろう? と思いペース
   を合せて走ってみた」
XT:「へへへぇ〜バレてたっすか」

 あたりを見回してみると、コンビニ発見。
 ちょうどメシ喰ってなかったからどこかでパンを齧ろうかと思い、お茶とパンを買って戻って来ると、FZRの所にXTがまだいた。

XT:「この単車の距離、たくさん走ってるんですね」
狸穴:「アジトの一つが千葉県だからね、頻繁に都内へ往復
   すると距離が延びる」
XT:「メシっすか」
狸穴:「うん」
XT:「いいなぁ」
狸穴:「買って来ればいいじゃん。たまに外でパン喰うのも
   いいよ」
XT:「さっきガソリン入れたら金無くなったから我慢です」
狸穴:「んじゃ、もう一つあるからハムサンドやる」
XT:「……イイっすよ」
狸穴:「『いいなぁ』って、腹減ったんでしょ。どうぞ」
XT:「んじゃ、貰うっす。ありがとう」

 絵描きで今は無職だそうだ。
 26才の男性で、絵の大学を出てから就職も間に合わず即フリーになったとか。(無謀な……渡世人街道まっしぐらですね〜)
 携帯を棄ててXT125に乗る。
 走行25000kmの白いXT125だった。
 前後ドラムブレーキだ。
 どこか知らない街のナンバーが付いていた。
 郷里に帰っても絵を描く仕事は無いし、都内にいればなんとかなるかと思い家賃を親に持って貰って、来年3月までアパートにいることができるが、生活費は自分で稼げと言う事らしい。
 たまに神戸のあたりのイントネーションを話す。
 絵描きで喰えないことは判っていたが、それでも何年か頑張ってみたいとの事。
 珍しいねぇ。
 生活費を切り詰めるためアパートには親が付けてくれた電話があるし、悩んだ末にオートバイを選んだそうだ。
 XTのタイヤは前がひび割れてかなり減っていた。

狸穴:「offへ行かないのなら、もう少し空気を入れると
   燃費稼げるよ。チェーンも乾いてる、油塗ってやる」
XT:「あ、ども。空気全然入れてなかった」
狸穴:「携帯があれば仕事も取りやすくなったんじゃないの」
XT:「アレあると部屋から出なくなるし、掛かって来るの
   は就職出来たやつらからの遊びの誘いばかりやし、だ
   めなんですわ。電話線じゃ精神の均衡がとれない事も
   判りました」
狸穴:「ふ〜ん(深いね流石、画家)。そう言えばあっしも
   今の仕事始めた当時のこの時期、3ヶ月ほど閑で全然
   食えなくてバイトしてたっけ……」
XT:「何屋さんなんですか」
狸穴:「写真だよ。近いけどちょっと違うかな」
XT:「そうですね、ちょっと違うかも。どんな写真ですか」
狸穴:「広告とかカタログとか婦人服が多いかな。時々教科
   書の写真」
XT:「いいなぁ」
狸穴:「やっぱり画家になりたいの?」
XT:「なりたいっす」
狸穴:「んじゃ、頑張って」
XT:「パン、ご馳走様でした」
狸穴:「俺達の商売は景気悪いとどうにもならんからね、大
   変なのはお互いさまかな」

 なんだか判らない人でした。
 多分あっしも世間的にはそう見えているんだろうなぁ……。
 携帯持つと憂鬱になるのか……オートバイだとならないのかな。
 皆を元気にする絵をたくさん描いて下さい〜。

XT氏 マミアナ

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