Vol.338 御子息 2002-10-26

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 ご子息と言ってもあっしの息子じゃござんせん。

 な〜んの連絡も無いまま15年くらい会っていなかった、友人グスタフ(あだ名)から電話が掛かって来た。
 あっしの電話番号、誰に訊いたのかな……。
 始めは、かつての仲間内の誰かがまた死んだのか? と思ったが、どうも雰囲気が違う。
 久々に連絡を取り合ったモノ同士の型通りの仁義口上が終わり、

狸穴:「して、何用?」
グス:「息子が16才になってな……でも高校に行くの1年
    遅らして浪人していたりなんだが」
狸穴:「大きくなったねぇ。奥さんのお腹の中にいた時しか
    知らないけど」
グス:「何の影響か、バイクに乗りたいらしい」
狸穴:「オートバイに乗るの……そりゃイカンよ、危険だ」
グス:「だろ。お前からも言ってやってくれよ」
狸穴:「言ってくれっ、と言われても、俺からじゃ説得力全
    然無いな」
グス:「だよな。俺が昔Z250FTに乗っていた事も、息
    子の奴は写真見て知っているし……ダメなんだよ」
狸穴:「んじゃ、野郎なんだしオートバイくらい乗れた方が、
    しっかりするんじゃないの?」
グス:「お前ならそう言うと思っていたよ。と言う事で、一
    度仕込んでみないか?」

 なんか話が変な方に向き出したな……はめられてる?
 どうも、自分はオートバイを降りてから時間が経っていて、車暦も始めの原付と250ccだけがマニュアル車で、後は全部スクーターしか乗ったことが無いから、仲間内でオートバイに乗るのはあっしだけだし、適当に怪我しないように転ばせて、オートバイがどれだけ痛いモノかと言うことを教えてくれとの事。
 んな事で、オートバイに目覚めた16才が諦める訳ゃ無いだろう……。
 怪我しない程度に転ばせる、なんて事は難し過ぎて出来ないです。
 かつてあっしが結婚する前のグスタフの現在の嫁さんに惚れていたから、当時を偲んで時々デートしても良い、とまで吐かしやがった。
 あのなぁ……友人の奥さんとデートしても、何〜もオモシロ無いのだ。
 ついでに息子とバイクの教習まで付いて来る。

グス:「だめか〜」
狸穴:「アホは死んでから好きなだけヤレ。タワケめ」
グス:「ん〜、じゃあ俺にも同時に教えろ! 俺も乗る」
狸穴:「あのな……教えるほど俺はオートバイ上手くないん
    だよ。判ってくれよ」
グス:「でももう息子は原付とって、自分でバイトしてバイ
    ク買って来たんだよ」
狸穴:「親が親なら子も子だなぁ」

 なんでも行動が先行する家系なのだな。
 ついでに自分もオートバイにまた乗りたいと言う口実らしい。
 何考えているんだか……。

 で、ご子息が買って来たオートバイが中古の古いベスパ50cc。
 親父のグスタフが乗りたいのは、W650かVRX。
 でも免許が無くてセロ〜号。
 セロ〜もすでに近所のオートバイ屋で中古を買っており、整備中で納車待ちらしい。
 ナニ考えているんだろうか、アホオヤジめ。
 結局、息子やあっしをダシにして自分が乗りたいのだ。
 奥様の咲さんのあきれ顔が目に浮かぶぜ。

 1回だけと言う事で、ベスパとセロ〜が来たら世田谷区用賀のグスタフ家まで行く事になりました。
 セローはセルが付いていて、軽いと言う事で選んだらしい。
 ベスパはカッコイイから。
 了解です。
 セローの整備状況は良し、ベスパもエンジン掛けてもクランクの軸受ベアリングが焼けてガラガラ鳴っていないので良しとします。

グス:「お前なんでFZR250アメリカ〜ナなんて乗って
    るの?」
狸穴:「失礼な奴だなぁ、コレで都内は充分なんだよ。おっ
    かなくて全開に出来ないくらいだ」
グス:「てっきりFZRだって言ってたから、750とか1
    000に乗って来るんだと思ってた。ちょっと乗っ
    てみたかったなぁ1000。250じゃなぁ」
狸穴:「FZR1000ね……免許が無いでしょ。息子の前
    で無免かよ」
グス:「をを……ヤブヘビ」
狸穴:「して、ご子息は」
グス:「お〜い! アラン、狸穴さん来てるぞ。早く出て来
    い」
狸穴:「アラン……日本人だよな?」
グス:「そうだよ亜蘭。カッコいいだろ俺が決めたんだ」
狸穴:「いじめられてないか」
グス:「小学生の頃はちょっとな……」
アラン:「はじめまして狸穴さん。ヘタなのでお願いします」
狸穴:「はじめまして、アラン君。俺も教えるの上手くない
    よ」

 ベスパの混合ガスの比率について知っているか? とか、タイヤのエア圧の点検をして、多摩川河川敷の駐車場に向けてスタート。
 セローは問題無いものとしてチラッと見ただけ。
 楽しそうに2台とも付いて来ます。

FZR:「マスター、グスタフさんはなんだか軽いお父さんです
    ね」
狸穴:「グスタフは昔からそうなのだ。取り柄と言えば取り柄
    だが」
FZR:「アラン君はその反対ですね。少しナイーブな感じで
    カッコイイです」
狸穴:「お母さんに似たんだな」
FZR:「お母さん似ですか、どんな御方ですか」
狸穴:「咲さんはよく気が付いてちょっとノーブルな感じ、
    だった気がする」
FZR:「ふーん」

 と、セローが停まった。
 何かと思い見に行ってみると、チョークが引かれっぱなしでした。
 ついでに燃料を見ると、タンクはそろそろリザーブに入る頃。
 ガソリンスタンドに寄ってセロー、ベスパとも満タンに。
 ベスパのオイル混合をする時の計量カップで、オイルを補給したガソリンの量に対して計算しながらタンクに放り込んでおります。
 コレが本格的な感じがして楽しいとの事、感心です。
 シート裏に混合比の換算表を、紙に書いて貼り付けてありました。

 現場到着。
 以前ドカ姐がDT125の練習をしたいと言うことで行った場所です。
 平日なので誰もいません。(ホントは入っては駄目なのかな?)
 適当に広いので、FZRとあっしが離れて立ち、その周りを周回するオーバル・コースを其々5周づつ、右回り左回りと繰り返して頂きます。
 やることはドカ姐の時とほぼ同じか、もう少し簡単かな。

狸穴:「んじゃ、頑張って回って下さい。先に回り終わった
    方があっしの所で後の人を待ち、逆回りね」
グス:「判った。でもこんな簡単でイイの?」
狸穴:「イイんじゃない。あ、そうだ速度は20km/h以
    内。それ以上出したらダメ。曲る時に足を出しては
    イケマセン」
アラン:「判りました」

 3セットほど回って頂きました。
 グスタフ15回足付き2回コケ、アラン3回足付き。
 一度休憩の為集まって頂きます。

グス:「このセロー、サスが変だ」
狸穴:「外から見てる感じじゃ、よく整備されていて問題無
    さそうだけど」
グス:「前から滑るんだよ」
狸穴:「お前がヘタなんじゃないの?」
グス:「この程度じゃヘタも何も無い」
狸穴:「ふ〜ん、まあイイや。アラン君はどう」
アラン:「足着かないのは恐いです」
狸穴:「だろ。二人とも曲る時に今より速度落してリーンア
    ウトしてごらん」
グス:「そうか……オフはリーンアウトだったな」
狸穴:「セローが可哀想だよ、グス」
グス:「了解!」
アラン:「リーンアウトってなんですか」
狸穴:「曲る時に、オートバイだけ傾いて、人間はオートバ
    イより少し立って乗る方法。やってみるよ」

 セローを借りて、リーンウイズとリーンインをやってみました。
 リーンウイズだと、ちょっと速度を合わせておかないと不安定になります。(フォークオイルがヘタってるな)
 リーンアウトだと小さく回れます。

狸穴:「セローのサスなんとも無いよ、普通。アラン君は判
    った? リーンアウト」
アラン:「判りました」

 で、3セット開始。
 リーンアウトで走り始めると、アラン・ベスパ組の方が少し調子良くなり始めました。
 グスタフ・セロー組は先程とあまり変わらない……。
 2セットめが終わる頃には、二人とも足を着かないで走れてます。終了。

グス:「左に曲る時の変速はどうするんだ、リーンアウトだ
    と変速出来ない! 左回りはリーンインの方がいい
    な」
狸穴:「20km/h以上出せないんだし、この程度の速度
    なら変速する必要もないだろ〜。曲っている時は1
    0km/hも出てないよ」
グス:「そか」

 何をしようと言うのだろうか……グスは。

狸穴:「アラン君は曲っている時には変速しなかったね、な
    んでかな」
アラン:「速度が変わると不安定になって曲り難いので、ちょ
    っとだけアクセル開けてそのままの速度で走ってま
    した」
狸穴:「正解。その方が足着かなくて楽だろ」
アラン:「はい。何でですか」
狸穴:「オートバイは曲っている時もバランス取らにゃ倒れ
    るから、曲っている時は、なるべく変化が起きない
    ようにしておいた方が楽に曲れるんだよ。スピード
    出ると大回りになるし、スピード出ていないと小回
    りし過ぎる」
アラン:「どうしてそうなるの」
狸穴:「遠心力とかそんなもんだ」
アラン:「……そうか」
グス:「……難しいもんだな」
狸穴:「難しいよ。結構大変な事やってる」

 でもコレを身体で覚えておけば、雨の日や将来大きなオートバイに乗った時に役に立つのだ。

 休憩終了して3回め。
 今度はシートに座らないで走り続けます。
 アラン君のベスパは挟むタンクもなく、左手がシフトとクラッチでリアブレーキが床位置なので、非常に難しいです。
 シートの先の方を脚にちょっと引っ掛けながら走るしかありません。前ブレーキでの制動の精度と、スロットルワークの微妙なコントロールを要求されます。かなり高度。
 ついでにタイヤが小さい。大丈夫かなぁ。
 グスのセローは立ち姿勢の方が乗り易い筈。
 初めのコーナーでベスパ転倒。アラン君はベスパの上に倒れ込んでます。
 グスは普通に走ってます。
 ベスパを引き起こしてエンジン掛けて再スタート。
 次のコーナーではおっかなびっくり。
 直線もほぼ10km/hのまま。
 思うように減速出来ないコトが判り、使う速度を下げたのでした。
 グスが早目に周回を終えてしまい、心配そうに見ています。

グス:「亜蘭の奴、ビビってるなぁ」
狸穴:「ビビってるんじゃないよ。ブレーキがほとんど使え
    ないから、速度を落としてるんだ。お前の息子は天
    才かも。路面の状況を物凄い集中力で走査しながら、
    スロットルだけでベスパのサスさばきをコントロー
    ルしてる。上半身のどこにも力が入っていない」
グス:「そか。BMXやっていたからかな」
狸穴:「そんな事やっていたのか……」
グス:「小学3年までな。自転車盗まれてやめた」
狸穴:「ふ〜ん」

 グスタフの息子アランは、ベスパと自分の重量が前後のタイヤにどのくらい掛かりながら荒れた地面をどうやって乗り越えて走っているのか、判っているのでした。
 車体の向きをコントロールしているのは外足荷重で……自然に出来てます。
 ハンドル操作ももフリーステアに近い。
 凄いかも。
 少しづつ速度を上げ始めました。
 スロットルを戻すだけで掛かるエンジンブレーキを有効に使いながら、加速する際に、リアがアウトにスピンした分で方向を変え始めています。
 あっし何も教えてません。
 戻って来ました。

狸穴:「疲れたろ」
アラン:「はい。座れないとベスパ、中々思うように動かなくて」
狸穴:「でも終わりの頃には動くようになった」
アラン:「なりました、ちょっとだけ」
狸穴:「スピードってどう思う」
アラン:「…………難しいけど、扱えるようになれば便利かな…
    …」
狸穴:「グス、お前もう越えられてるよ。今の会話の内容を理
    解出来るか」
グス:「よく判らん」
狸穴:「だろうな。アランは必要最低限の出力で、最大効率
    を発揮する走り方を知ってる」
グス:「まさか、遅いじゃん」
狸穴:「同じマシンを同じ時間乗ったら、もうお前じゃ適わ
    ないよ」
グス:「俺も歳だしな」
狸穴:「アラン、疲れていなければ、今の走り方でもう1セ
    ット走ってごらん。視線をもっと先にとばして、手
    前は見ないで感じるだけ。グスは休憩〜」
グス:「なんで?」
アラン:「はい」

 アランがまた走り始めました。速度は先程とあまり変わりません。
 でも安定させて曲ってます。

狸穴:「よ〜く視てみなグス。ステップボードをつかむよう
    に踏んで、アランの膝が屈伸しているだろ」
グス:「それが何?」
狸穴:「ホイールベースも狭いしサスも悪い、タイヤ径も小
    さい。あの形だからリアブレーキも自由に使えない。
    でもなんとか走らせている。上半身は適当に力を流
    しながら、微妙なスロットルの操作に集中している」
グス:「そうだな」
狸穴:「たぶん俺ももう適わないよ」
グス:「そんなに凄いのか」
狸穴:「しばらくしたら、どこかトライアルかオフのチーム
    を捜して走らせた方がいいな」
グス:「アイツが望めば、かなぁ。人中で競う事、好きじゃ
    ないみたいだよ」
狸穴:「負けないと思うけど」

 グスタフは少し寂しそうな目でアランを追っていました。

グス:「俺も走る」
狸穴:「疲れてないか?」
グス:「まだ大丈夫そうだ」
狸穴:「んじゃ、2速まで上げたら後は左手離してゆっくり
    走ってみ」
グス:「判った」

 アランコケる。調子こいて速度を下げきらないうちに加速に移ったのだ。
 疲れて来たかな……そろそろ集中力が続く限界かも。
 戻って来た。
 元々かなりヤレていたベスパは傷と泥だらけ。
 オヤジのグスが走るのをジッと見ている。
 グスの爪先も真っ直ぐ前を向いて、セローを脚で挟み込んでいる。
 ブレーキランプも頻繁に点かなくなってきた。急に無駄が減ったのだ。

アラン:「狸穴さん、オヤジはなんで片手離してるの」
狸穴:「ベスパと同じ状況に近づけて走っているんだよ。2
    速のままクラッチ切れないからブレーキも掛け難い
    し、スロットルだけでスピードコントロールする事
    になる。車重と車高があるから、コントロールを予
    測しながらやらないといけない。それを毎回繰り返
    す」
アラン:「やっぱオヤジの方が上手いね」
狸穴:「……そうだな、アランもしばらく乗っていれば、い
    つか追い付くんじゃない?」
アラン:「そうかなぁ」
狸穴:「そろそろ戻るから支度して。帰ってからセローもベ
    スパも洗車だ」
アラン:「はい」

 グスは左手を離して乗ってから4回コケている。
 コケ方は上手い。ヘタにセローを保持しようとしないで身体を安全な所に放り出している。
 本能的に逃場を見付けているような感じ。
 グスもヘタじゃないのだ。
 ただ、左手を離して乗ると言う制約は、想像以上に困難を極め、途中からシートに座ったまま走り始めてしまったので、この辺でお開きだ。
 無理に頑張っても面白くないのだ。

 戻る時にはベスパもセローもアスファルトの上を、来る時の半分くらいの無駄で走っておりました。

FZR:「アランさん上手かったですね」
狸穴:「ちょっとビックリした。もう俺が教える事はないか
    ら、この先はどこか専門の先生捜した方が良さそう
    だ」
FZR:「そうなんですか」
狸穴:「まあ、世の中には色んなオートバイがあるからね。
    たくさん乗ってみると良い」
FZR:「ですわね」

 先日、傾斜している所をFZRで8の字描いて曲る練習していたらコケそうになって手首を捻った。
 まだ痛いのでした。
 グスよりヘタかも。

グスタフ 亜蘭  マミアナ+FZRx

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FZR250 トップ NS400R TOP


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