Vol.265 充分足りた、らしい 2002-02-16


FZR:「あら……マスター、今日は秋水様の改装ではなかっ
    たのですか。喪服ですね」
狸穴:「急遽変更。これからお通夜だ」
FZR:「お通夜ってなんですか」
狸穴:「人間が死ぬと、まもなくお通夜と言う儀式があって、
    その次の日かもしくは近々の良日にお葬式となるの
    だ」
FZR:「どなたか亡くなられたのですか」
狸穴:「昔〜赤坂と言う街で遊んで頂いた、元日本海軍だっ
    たお偉いさんが往生したらしい」
FZR:「大分昔のお知り合いですね。わたくしはお会いした
    ことありませんよね」
狸穴:「FZRは会ったことは無いかなぁ。でも日テレの近
    所のご自宅の前はFZRも何度か通過している筈」
FZR:「そうなのですか……あ、あそこですね。マスターの
    お友達でかつお爺様代わりでもある方ですね。ご愁
    傷さまです」
狸穴:「勝負好きで、贅沢好きで、あたらしもの好きで、乗
    物好きな変な爺さんだった。遊び方とか教えて頂い
    たのだ」
FZR:「……ご病気ですか」
狸穴:「普通に老衰らしいよ。人間の寿命としては長かった
    からきっと大往生だ」
FZR:「では、これから出発ですね。同行するのがわたくし
    で間に合うのでしょうか」
狸穴:「ご家族の方が駆け付ける明日までの間に、いろいろ
    用意しなきゃならん事があるからオートバイが一台
    あると便利なのだ」

 急いで行ってみると、一番下の娘さん(あっしよりも上の人です)がご家族で待っていた。そう言えば数年前に婆さんは他界しているから爺さん一人だったかも。
 一応葬儀屋さんの手配は済み。これから用意と言う事らしいが、弔問客はご近所の方だけでまだ会社や親戚関係は誰も来ていない。
 爺さんにはたしか二男二女の子供が存命していた筈だが、そのうち2名はアメリカ在住であとの一人は九州のどこかとか。

 ご家族が揃うまで、何か役に立たねば。
 あっしは、昔この近所に棲んでいたので、たまに出前を頼んだすし屋と、蕎麦屋の自宅の方に電話て当座の食事を用意する。このあたりは詳しいです。
 遺影写真の用意やお葬式の用意で忙しい娘さんとその家族の代わりにちょっと働いた。
 爺さんは現役の頃は会社社長だったし、会社関係の連絡はすでに済んでいると言うことで、あっしは当時遊んでいた時の関係で判っている範囲に連絡開始。
 昔爺さんの子分だった一人がまもなくやって来ると、爺さんの家族と親しかったらしく、その辺の細かな連絡系統を把握している事も判明して、その先は全部おまかせした。
 その方はさすがに大きな会社の総務担当だった方なのでこう言う事には長けていて、爺さんの愛用していた帳面を爺さんの書斎から探し出し、それを見てみると……こう言う事態に連絡する順番から葬儀委員長の指名、ご親戚・関係者略歴を示した表が出て来た。
 お妾さん達の項目まである……。(ヤルなぁ〜)
 一瞬で連絡系統が決まった。
 常に有事に備えている爺さんは凄いのである。
 その中に、あっしの名前も書いてあった。こう言う際の役割まで書いてあった。
 仮通夜での下足番をヤレと言う記述。
 弔問客が来始めるまでの間にあっしは、その当時遊んでいた若い連中をその中から探し出し、連絡をとる事に決まった。
 当時、あっしが仲良くしていた赤坂で飲み屋をやっていた家の女の子もリストに入っていた。小百合ちゃんだ。
 みんなあっしと同様、年賀状だけはやり取りしていたらしく今の住所と連絡先がアップデートされていた。
 爺さん、マジで凄いです。
 爺さんがオートバイに乗っている写真を拝見した事があるが、陸王に乗っていた。
 あっしが爺さんに出会ったきっかけは、小百合ちゃんのお父さんの経営する飲み屋でオートバイを媒体として知り合ったのだ。
 どういう訳かいつの間にか爺さんとお友達になり、爺さん婆さん達が遊びに行く先々へ運転手代わりに連れて行って頂いた。
 伊豆・箱根や野沢温泉まで巨大なメルセデスを運転させられた。
 外にストリップを観に行くのも面倒なので、余興として小百合ちゃんと和合しているところをワシ達に見せろ、と言われて困った時もあった。(あっしは構わなかったのだが……)
 かなり変だけど豪快な爺さん婆さん達だったのだ。
 総務さんが連絡を済ませる頃には、人が押しかけ始めた。
 この総務さん物凄く斬れる方で、葬儀委員長や会社関係、その他の方達の動き方をそれまでにあらかた決めて葬儀屋さんとの打合せも済ませ、坊さんとの段取りも全部電話ながら済ませていた。
 警備会社を知っているかと訊かれたので、たまに芸能人のロケでお世話になっている警備会社を言うと、

総務:「そこの会社なら知っている、そうしよう」

 という事になった。
 世の中にはこう言う事態に淡々とこういう事を熟してしまう人がいるのだ。
 本当の正体は良く判らないが、世間に顔が利きくようだ。爺さんを裏で支えて来た懐刀的な影なのだろう。
 この物静かな60才絡みの総務さんと会う人には、やたら緊張する人がいたり、目で合図しただけで動く人もいた。こんな人を子分にしていた爺さんは……。
 仮通夜なのに弔問客は結構な数だ。新聞に出ている人も何名か来ていた。
 下足番も大変なのだ。
 雨が降っていなかったので、玄関先に新聞を布いてその上に番号札を入れて、来た人達の高そうな靴を並べて行く。
 車イスやステッキも多い。
 なぜだか若い女の子のブーツも多い。
 すぐに場所が足りなくなった。
 葬儀屋さんのスタッフの一人が上手くフォローしてくれた。
 小百合ちゃんはお茶係。爺さんが良く行っていた料亭の仲居さん達に混じって頑張っている。
 もう充分、お母さんになっていた。子供が2名いるらしい。まだ美人でいてくれたので良かった。

 夜になってもまだ人が出入していた。
 会社の人達がたくさんやって来たので、あっしは下足番から解放。
 爺さんの娘に呼ばれて、一息つきに行くと小百合ちゃんも奥の部屋に呼ばれて来ていた。
 お互いに最近の近況を話たが、普通だった。
 取り分けてあった寿司を頂いた。
 娘さんが、あんた達の分もあったから見ろというのでVTRをスタート。
 生前の爺さんがVTRであっし達にメッセージを残していたりしたのだ。
 全く魂消た爺だ。
 三脚を使いVTRを自分で回して、手元の帳面を見ながらみんなにメッセージを残したらしい。背景の庭が白く跳んでるぞ……。言ってくれればライティングしたのに……。
 娘さんはこのVTRの事を知らされていたらしく、見せてくれたのだ。

爺 :「次は太郎か……久しぶりじゃ息災にしているか。世
    話になったな、運転手兼遊び相手をありがとう。今
    でも単車に乗っていることと思うが運転、気を付け
    ろ。小百合と健一郎はお前の子分だから、助け合っ
    て日々を有意義に生きるように。こんな時でもない
    と顔を合わせる事も無いだろう。たくさん友人をつ
    くって毎日俺のことも思い出せ。はっはは」

 との事。何つ〜ジジイだ……。参りました。

爺 :「小百合は来てくれたかな。お前はワシの婆さんが若
    かった時と似ていてイイ女になったことだろう。太
    郎とは結婚しなかったようだが、その方が苦労しな
    くて良かったか……ははは。本当は爺さんが嫁にも
    らってやりたかったが婆さんがいたしな……お父さ
    んにはいつも遅くまで世話になった、よろしくお伝
    え下さい」

 爺は小百合とあっしを付けようとしていたのだ。
 でも、フラフラしているあっしは全然気がつかなかったのでした。惜しい事したかも。

爺 :「健一郎……健一郎は、死んだのか……。親不幸者め
    ……3人の中では一番計算が起つ奴じゃったな。ワ
    シもすぐそっちへ行く」

 健一郎は、会社で働き過ぎて過労死したのだ。
 爺さん、呆けて判らなくなっていたらしい。
 この先、呆けたまま化けて出られても困るので、いらっしゃる時は呆ける前の状態でいて下され。
 この他、戦友関係やあっし達の知らない爺さんの友達関係にもたくさんメッセージが入っておりました。
 途中、名前だけ呼んで誰だか判らなくなってしまった方もいたようですが笑って誤魔化しておりました……。

爺 :「今生には充分足りた。皆様ありがとう」

 とのこと。
 VTRのタイトルは……『国黄泉から』となっておりました。
 あたらしもの好きの海軍には……適わんぜ。合掌。

爺 総務さん マミアナ+FZRx

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