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正月と言っても全然普段と変わらず、フラフラする毎日。
あまりにヤル事も無し、やむなくまだ清掃の終わっていない狸穴町の事務所へ手早く清掃を済ますために行った。
都内の道路は空いてますが、日中でもたまに酔っぱらいな豪快な車もいたり……。(気を付けてクレ〜)
うちの事務所の近所に事務所を構えるアートディレクターさんの所も、何やら電気が点いている。
いるのかな? と思い電話てみたら……いました。
同じく家にいてもヤル事が無いので、会社でパソコンの中を整理しているとか。
いずこも同じなのだな……。
電話てみると、遊びに来てもイイよ〜ついでに出前ピザでも取とくよ。と言う事でピザに釣られて掃除もやめてFZR共々お邪魔する事にしたのでした。
FZR:「マスターと同じような状況の方がいて良かったです
ね」
狸穴:「まったくで」
FZR:「わたくしはあそこのステキな駐車場で、ディレクタ
ーさんのハ〜レとお話していますので、ごゆっく
り」
狸穴:「へ〜い」
新しいビルではないのだが、様々な理由から空調の効いている乾燥した駐車場なのでした。
その地下の駐車所からセキュリティーのテンキーを押して、薄暗いリノリューム張りの階段を使って上にあがると、途中に何やら妙な気配が……人霊?
このマンションは事務所利用だけではなく住居として在住する人の方が多いので、階段を上がったりする際に、あっしは自然と足音を完全に消して移動する癖が付いているのでした。
たまに、大層お金の掛った和服をビシッと粋に着こなした若い女性を何名かエレベーターの中などでお見受け致します。
あっしはその中でも黒地に紫が入り、白足袋の上の裾から緋色の襦袢がチラリと見える和服を着た柔らかい香りのする若い姐御が大好きです。
駐車場に入っている自動車は凄いし、ここはどういうマンションなんだろうか? 不思議な所です。
さて、通路の気配の主は以前もこのマンションのエレベーター等で何度かお見受けした事のある26、7才のおとなしそうな御婦人でした。
ある部屋のドアに耳を近づけて内部を窺っております。
あっしの聴力レベルを最大まで引き上げてみると、空調の音以外に彼女の呼吸音越しに内部の物音が……。
男性と女性が其々一名づつ。都合2名分の音声が伝わって来ます。
聴える声は女性物の声が主なので、単に和合中かな?
と言うことは……ドア前のこの女、のぞき取材……じゃなくて、ストーカー中?
かなり長時間そこにいたのか持参したコートと鞄は通路に置いて、裾が長めの白いプリント・スカートを爪先で踏んだまま片膝をついてしゃがんで、こちらに背を向け低い姿勢でジッとしております。
ん〜、長めの髪と痩せた背中がイイ感じ……。
お正月と言えども全身を耳にしてクラッシックなスタイルの諜報活動中か……殊勝な。
でも、この建物は通路も空調されているから楽だよね〜。
ストーカーしている人、最近多いよねぇ……長玉大口径のカメラを抱えていたり、暗がりで数名の男性で組んでいたり、いろいろな所でお見受け致します。
ピザが来るまで多分まだ時間が掛かるだろうから、階段の踊り場からその女性をしばらく観察する事に致しました。
どうせこのページのネタにするつもりだから、たまたま鞄に入れたままになっているデジカメを取り出して撮影しようかと思ったが、妙に気配を悟られて逆上されても困るので中止……残念。
デジカメは操作音が出る設定になっていたのだ。
しばらくそうしていてもお正月の昼のせいか、他の部屋からの人の出入りもありません。
彼女が通路に置いたコートから何かを取り出しました。
その際、少し動いたらしく階段室からだと少し見難いので、あっしも通路に出て少し彼女に寄ってみようと思いました。
今度は足音だけでなく気配も完全に消します。
移動の際には空気も動かしません。
彼女の5m背後に同じ姿勢でしゃがみます。
……コレ以上は寄れない。
彼女が床に置いたコートのポケットから取り出したモノは、ハンカチでした。
あっしは、包丁とかだと思ったのだ……。
以前、あっしの友人が自室のドア外でナイフを持った女性に張付かれてSOSの電話が掛って来て、処理しに行ったことを思い出したのでした。
彼女はハンカチで目を拭っております。
派手な愁嘆場になるとご本人も大変だろう、と思いそうなる前に妙なモノを持っていたら後頭部に一撃加えようかと考えたのだが、その必要も無さそうなので、このまま静かに引き上げようかと思い向きを変えようとした際に、靴の革がキュッと鳴ってしまいました。しまった!!
目が合いました。
彼女は慌てて立ち上がろうとした時に、自分で踏んでいたスカートの裾が原因で目的のドアに体当たり。
あちゃ〜。
あわてて逃げようとしても、退路にはあっしがいます。
どうしたモノかと思い、騒ぎ始める前に口に人差し指を当てて『静かにしろ』と言う意思を伝え、『大丈夫、何も持っていない』と言う事を現すために左手を握って右手で包み、次に両の掌を開いて見せます。
……なんだかこの不意にした動作、知ってるぞ。たしか忍者部隊月光の合図と同じだ。わはは。
ドアの奥から人の動く気配が伝わり始めました。
このままでは彼女の所在が確認されてしまいます。
ドア内の音はそのすぐ前に立っている彼女にはもっと良く伝わっている筈で、ドアとあっしの顔を交互に見ております。慌てております。
鞄とコートを指差してから、こっちに来いと手で招くとすぐに反応。
いきなり現れたあっしの指示に不安があるような顔をしておりますが、反応速度は悪くありません。
階段室に誘い込み、下に向かおうとしましたが上にあがる事にしました。
静かに階段を上がる様に耳打ちすると、履いていた靴を自分で脱ぎました。
……慣れてるねぇ。
一つめの踊り場に上がってすぐに姿勢を低くして待機。
同時にドアが開く音が下から伝わって来ます。「どなたですか……誰かいるの?」と言う男性の誰何の声。
先程のドアから、エレベーターホールの方へカーペットの上をパタパタと踵を引き摺る足音は向かいました。
御婦人:「泥棒とかじゃないんです」(日本人だった)
狸穴 :「静かに」
エレベーターから足音が戻って来て階段室に入って来ました。下の方へパタパタと降りて行きます。
直下で「誰だ!……悪戯かなぁ」と言う声。響きます。
足音は一つ下の階まで降りたが、すぐに戻って来て、そのまま先程のドアの方へ戻って行きました。
続いてドアが締まる音。
ドアが閉りきる前にちょっとだけ、女性の声で「誰かいたの?」ソレに応えて「誰もいなかったよ。ちゃんとドア締まってなかったのかな」
姿勢を低くしたあっしの横で自分の靴を持った御婦人は震えてこちらを見ております。
狸穴:「まだ動かないで。静かに。泣けば殺す」
顔を見ないで言いました。ここで甘い声をかけると、我慢が効かなくなり泣いたり逆上されたり動いたりいたします。
まだドアの内側から外の様子を窺っているかも知れません。
一時戻した聴力をまた最大レベルまで引き上げて気配を窺うが何も拾えません。
普通に警戒心を持つ人間ならば、まだドアの中から外の様子を窺っている筈です。
3分ほどそうして無言でジッと踊り場で、しゃがんで待つ事にしました。
彼女は小さくため息……そろそろ我慢の限界かなぁ。
程なく前の道路でピザ屋の原付きが止まる音を確認。
上の階のディレクターの部屋でドアホンの鳴る音が聞えました。
あっしだけゆっくり立上がり直下の階段室入口に誰もいない事をたしかめてから、彼女を静かに立たせて上階に移動開始。
通路に出た時に調度エレベーターホールのドアが開く音が聞えたので、通路に出てから彼女に靴を履かせて、ピザ屋と応対中のディレクターさんのドアの前に移動。
行き掛り上、連れて来てしまいました。
ドアの中から、何も知らないディレクターさんが、
D :「お! 来たか。明けましておめでとう〜。おや、正
月からモデルさんも一緒?」
狸穴:「今年も宜しく〜。……ちゃうのだ」
勤労な宅配ピザ屋青年も帰り、ドアを締めて入室に成功。
なんだか今年は初っぱなから妙な具合です。
Dに、彼女の事をどう伝えるかと考えたのだが、適当な人別は思いつかず正直にご紹介申し上げると。
D :「ンじゃ、お前最後まで面倒みれば。子分にしてや
れよ」
狸穴 :「子分になりますか?無給ですけど」
御婦人:「あの……あなた方は何者なのですか。私はどうな
るのでしょう」
狸穴 :「この人は人身売買専門。あっしは人殺し」
Dも彼女と目を会わさずに、深くうなずく。
Dの事務所の壁には額装された槍が飾ってあるし。
深いため息の後、
御婦人:「……済みませんでした、見逃して下さい」
次はDが彼女の目を見て、
D :「駄目。……ぶはは、嘘だよ」
御婦人:「だって、さっき私のこと殺すって言ってました!!」
D :「狸穴ちゃん、やり過ぎ」
2時間ほど経ち、居心地のあまり良くないストーカーの顛末を少し味わって、壊れたスカートの裾をあっしが貸した道具で直して、彼女はピザを二切れ食べて帰って行きました。
帰り際、下の階でドアを思い切り蹴飛ばして「馬鹿野郎〜ドスケベ! SEXキチ◎イ!!」と言う大声がしましたが、ドアは開きませんでした。
めでたし。
御婦人 ディレクタ マミアナ+FZRx その他
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