Vol.155 降臨するモノ 2001-05-11


 ちょっと納品を済ませて、いつものように腹が減ってフラフラと都内からアジトへ走っていると、前を行く大きな黒いトラックが最大出力で黒煙を吹き上げながら坂を登っている。
 完全、過積載だな……。

FZR:「マスター、コレではわたくし達の吸気フィルターも
    すぐ駄目になってしまいませんか」
狸穴:「困ったねぇ、でもこの時間帰宅ラッシュであまり擦
    り抜けしたくないのだ」
FZR:「ではしばらく我慢、致しましょう」

 普段はもっと悪い状況でも、のろのろ動く車列の間を擦り抜けしてしまうのだが、この時間だけはどんなに混んでいても擦り抜けしないのだ。
 後方からやって来るオートバイは、どんどん擦り抜けして先へ行く。
 完全に信号で車が止まっている時に、信号まで擦り抜けて前へ出れば、先に行ったオートバイ達とほぼ同じタイミングで並べるのでした。
 トラックの吐き出す排ガスをなるべく避けるため、乗用車を一台挟んでついてゆく。
 勾配がキツくなり、トラックは更にエンジンの咆哮を上げる。
 トラックの荷台に積まれている建物の廃材? が、ガサリとズレたらしく荷台の囲いを越えてぶら下がっている。危ない。
 冷凍船で使う赤い大きなコンプレッサーのタンクとそれに繋がる黄色いコード。その他何かの機械を乗せていた台とおぼしき鉄アングル材製トラス構造物が2個、出ている電気のコードに絡まりながら荷台からぶら下がっている。
 良く落ちないモノだ……。
 直後を走っていた乗用車も車線を左側に移動。
 擦り抜けして行こうとしたオートバイ達も距離をとって離れる。

FZR:「マスター、わたくし達も左端に寄りませんか」
狸穴:「ん、入りたいのだが車が詰っていて入れ無いのだ……」

 トラックが坂を登りきり減速したとき、ガチャガチャとアオリに当たってぶら下がっていた廃材が崩れ出した。
 さすがに、トラックのドライバーもこの事態に気がついたのか、運転席から下りて来てその様子を見る。
 こちらに向けて一礼。(礼儀正しい奴だな)
 人力では上がらない重さなので、トラックを今から左に寄せて装備のユニッククレーンで積み直す、とのアナウンス。
 運転席に戻って行った。
 アナウンスがあったので、後続の乗用車やオートバイはみな遠巻きにしている。
 さすが、いつも通勤で走っている人達の時間であり、ドライバー達も慣れたモノでそのトラックを停めるスペースを確保するためにわずかづつ乗用車達は配置を替え始めた。
 左の前がすっかり空いたのでそこへトラックが入ろうと動いた。
 その時、堕ちかけていた積み荷のコードがついに切れ、

 ドシャ〜ン&ゴンゴォ〜ン。

 はみ出していた分が全部落ちた!

狸穴:「あ……墜ちた」
FZR:「マスター、あの丸い大きなタンク。こちらへ転がり
    始めてます」
狸穴:「あのタンクの手前に60φ程のパイプが転がってい
    る。アレで踏んで止まるんじゃないか?」
FZR:「様子をみましょう……」

 止まり掛けたタンクは、そのパイプを踏みつけ乗り越えだした……!

狸穴:「後ろへの引きはない。奴までの距離は12、3m。
    FZRだけここに置いて逃げちゃ駄目?」
FZR:「マスターがそうしたいのであれば……わたくしだけ
    でアレを受けますが」
狸穴:「今生の別れだねぇ……ヤムヲエン」

 再び転がりだした巨大タンクを加速がつく前にFZRの前輪で止める! という判断をしたのでした。
 なるべく早くあのタンクに90度で前輪を押しつければ止められる……? かな。
 そうと決まれば(それ以外逃げ道なし)、14000rpmで急発進。

狸穴:「FZR、止めるぞアレを」
FZR:「はい」

 夕方の渋滞でごった返す雑踏で阿鼻叫喚の嵐。
 タンク手前で急減速。奴はまだ50cmも動いていないかな? と思ったのだが、すでに1mほど動いて いた。
 進入角度は大体90度だ。
 FZRの前輪を細かく90度になるように合わせて、衝撃を待つ。

FZR:「駄目だと思ったらマスターは先に逃げて下さい。後
    はわたくしが潰れなければ止まるでしょう」
狸穴:「応、駄目な時は脱出する。やってみないと判らんねぇ」

 奴に前輪が触れると同時に、ハンドルに物凄い衝撃が来た。
 タイヤの接触点が潰れている。
 FZRちょっと押し戻される。brembo制動力全開。
 インナーチューブ保つかなぁ……。不測の事態に備えてエンジン停止。
 と、同時に左側からタンクに引きずられて、トラス構造の箱状のモノが回り込んで跳ねて来る。
 左足で蹴り返す。止まった。
 あっしの左ひざの中の人工物が……ちょとズレる感触&ジィィ〜ン。
 FZRは両足を浮かしても倒れない。

狸穴:「なんとかタンク止まったけど、ここから動けないねぇ」
FZR:「止まりましたね」

 周囲では、拍手喝采〜。
 ちょっと前ブレーキを緩めると押し戻される。
 他のライダー達がオートバイから降りて来て墜ちたタンクを支えてくれた。
 ありがとう。
 左側に落ちていた構造物に手足と頭を付けたら今、流行の"先行者"みたいだ……衝撃で中華キャノン暴発しなくて良かった。ワハハ。
 更に、乗用車からも人が出て来てタンクをトラックの方へ押しやる。
 トラックから運転手が出て来て、事の次第に気がつきその場でユニックを最大に延ばし、その間ワイヤーを巻き付けタンクを固定。
 先行者共々タンクは釣り上げられトラックの荷台へ。

狸穴:「どこか壊れてないか?」
FZR:「前ホイールのクラックが……」
狸穴:「ありゃ……また広がってる。どうせそろそろ換える
    ホイールだ」
FZR:「マスターは壊れてませんか」
狸穴:「左の膝も保ったみたいだし、でもちょっと右手首捻
    ったかな」
FZR:「アレを止めて良かったですね」
狸穴:「そうだねぇ……あのまま下で待っていたら、今ごろ
    ペッタンコで大惨事になっていたかな。少し重たか
    ったねぇ」
FZR:「わたくしはもう、この世にいませんでしたね」

 窮鼠猫を咬んだのでした。
 誰も死傷者は出なかったしお巡りさんを呼ぶまでもなかろうと、事が済んだのでさっさとアジトに向けて再出発〜。

狸穴:「あれれ? FZR、フロントホイール偏振してる?」
FZR:「マスターが手を放すとちょっとハンドルがブレます
    ね……フレームは問題ないですが」
狸穴:「部品もあらかた揃ったし、早目にフロント周りを入
    換えるか」
FZR:「はい」

 ちょっと走っていると、今度は夕立が……。
 今日はなにかと降って来る日なのだな。
 急に雨が大粒になり、雹まで降って来た。
 80キロで走ると痛い。

FZR:「わたくしのカウル、コレでは保ちませんので減速し
    て下さい」
狸穴:「んじゃ、どこかで雨宿りだ」

 雨宿りにエッソのガソリンスタンドに入ると、同時に雹が大粒になってきた。
 地面に当たると"パシッ!"と鳴って砕ける。
 まだ運に見離されていないようです。
 フロントタイヤのエアを普段より低めに入れて、ホイールのブレを騙す。(あまり意味ないかな?)
 遅れて入って来た乗用車のフロントガラスにヒビが入っているのを確認。
 雨が上がるまで待っていると、目の前を先程の爆撃トラックが通過して行った。
 今度はあのタンクは荷台にしっかり縛り付けられていた。

FZR:「先行者さん達、行っちゃいましたね」

 耳の奥で先行者のマーチが鳴りだした。
 ここで聴けます。
 擦り抜け中にあんなモノが墜ちて来たら対応出来なかったなぁ。
 荷物の落下には気をつけよう〜。(オートバイの荷物も)

マミアナ+FZR

*知ってる人は知っている『先行者』とは、最近雪風★中尉が紹介してくれたFZRのお友達なのでした。
 かっこいい奴です。

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