Vol.148 サイドマシン 2001-04-09


 先日、昔〜の仲間だった者が18年ぶりに電話を掛けて来た。
 以前はこの昔の仲間達と、たまに走りに行くこともあった。
 それぞれオートバイ乗りだった者が、年に1回ほど偶然集まる程度の仲で、年齢も性別も仕ことも違うのだが、妙に気が合った。
 体形がデカイので、巨大なマシン(CBX1000)を必要とする奴や、ダートマシン専門の奴、トライアル専門、旧車専門、特撮スタント専門等々、何の統制も取れない。とても一緒に同じことが出来るような連中じゃなかった。
 それでも、なんとなくどこかで何人か会っていたりしていた。
 あっしも仇もその中の一人だった。
 その仇に、左足のくるぶしから先を潰された"奴"も仲間だった。
 何かの拍子にお互いに意地を張り合い、身体もマシンも小さかった方が大怪我をしただけの話だった。
 今じゃ、『若かったからヤムヲエンのだ』で済ましているが、当時それが元で仇は仲間と別れた。
 あっしもオートバイ乗りと親しくなり過ぎると、怪我する奴とか死ぬ奴とかそういうことが嫌いだったので、事が起こる率の高い仲間を持つ事から外れた。
 その後もあっしと仇は、何の因果かその後も当たることになったっけ。

 電話を掛けて来た足を無くした奴(にているので、ここでは蒋介石)は、当たり障りのない世間話の最後に急に本題に入って来た。

蒋: 「またオートバイに乗りたいと最近思うようになっている」
狸穴:「……免許は」
蒋: 「この足だから無いよ」
狸穴:「無免でか」
蒋: 「普通免許はある」
狸穴:「んじゃ乗れないね。無理だ」
蒋: 「ATミッションを積めば俺でも乗れるんじゃないか」
狸穴:「……悪いが、止めておいた方が良い」
蒋: 「お前なら造ってくれるんじゃないかと思ったんだが……」

 数秒、考える。
 どう考えても、一般道では難しい。

蒋: 「俺もオートバイの免許が降りないのは判っている。ちょ
    っと聴いてみただけ」
狸穴:「家族は?」
蒋: 「いるよ、カカァと息子だ」
狸穴:「なんていってる」
蒋: 「何も話ていない」
狸穴:「ダマテンか、そりゃまずいな」
蒋: 「遅くても構わん、ハコに入って丸いハンドルで走るのが
    嫌なんだ。なんか手はないかなぁ」
狸穴:「詳しいことは判らないけど、3輪車登録のサイドカーな
    ら普通車として乗れるか……」
蒋: 「そうなんだよ。ニーラーがイイ」
狸穴:「あ……お前、最初からそう言わせる積もりだったな!」
蒋: 「はっはは、バレた? AT車からエンジン外してそれで
    造れるか?」
狸穴:「そんなマシン、やったことはないし何かあっても責任取
    れない」
蒋: 「責任は全部俺が持つから頼むよ……駄目か?」
狸穴:「ニーラー……膝をステップボードについて跨がって乗る
    形状のサイドカーか。造ったことも無いし、車体の構造
    も頭に浮かばないよ」
蒋: 「お前に電話する前に20軒ほどオートバイ屋を当たって
    みたが、どこもサイドカーはやったことが無いと言って
    いた。俺も歳だし、今のうちにもう一度乗りたいんだよ。
    一度会えないか。実はヨーロッパとか、日本のサイドカ
    ー屋の資料を集められるだけ集めてある」
狸穴:「その中に、新潟のサイドカー屋の資料もあるか?」
蒋: 「知ってたか! もちろんある。でもそこには直接この足
    のことを黙って頼めないし、HPを見ただけだ。だから
    お前に電話ている」
狸穴:「当たり前だろう、困った奴だ」
蒋: 「……今からお前の所へ行ってもイイか」
狸穴:「俺は反対するぞ。ソレでもイイなら来い」
蒋:「10分で行く」
狸穴:「なんだ、近くまで来てるのか」

 5分すると、ドアホンが鳴った。
 すぐ下にいたようだ。うちの住所をだれに聴いたんだろうか?
 下まで降りて行く。
 資料らしいモノの入ったゼロ・ハリバートンのスーツケースを下げて、蒋介石が待っていた。
 表情は変わっていないが、それなりに苦労したらしく短く刈り上げた頭髪にも白髪が混じりソレなりに老けていた。腹は出ていない。
 まだ春だと言うのに色濃く日焼けしている。
 最近の装具はとても良くできているらしく、パッと見には偽足だと気がつかない歩き方だ。
 入って来るなり、

蒋: 「とりあえずコレだけ資料がある。見てくれ」
狸穴:「止めた方がイイんじゃない?」

 凄い資料の量だった……よくもまあコレだけ集めたモノだ。
 大体がwebで集めた資料を上質紙にプリントアウトしたモノだった。
 英語やドイツ語で書かれたモノには全部和訳がつけてあった。几帳面にファイルされている。
 ……奴は本気らしい。
 ドイツのビルダーに問い合わせていたメールログを見ると、蒋介石は車体だけ売ってくれと言っている。
 コレではエンジン出力も重量配分も判らないし、ビルダーもOKする訳が無い。
 最後に断られている。

狸穴:「エンジンは何を積む積もりなの?」
蒋: 「660ccNAの軽自動車用をATミッションごと」
狸穴:「んじゃ、車でイイじゃない」
蒋: 「駄目なんだよ!ハコじゃ」
狸穴:「全くワガママな奴だなぁ。大体俺は現在フォトグラファ
    ーだよ、オートバイは仕事じゃないし乗っているだけだ」
蒋: 「ケツに聴いたら、なんか造っているって言ってた」

(ケツとはコレも当時の仲間でいつでも最後を走っていた奴だから"ケツ"。あっしより4年ほど上だ、半年ほど前に偶然会って《弐號》の話をちょっとだけした。あの野郎……喋ったな)

狸穴:「たしかに造っているけれど、2輪車だ。サイドカーじゃな
    い」
蒋: 「サイドカーってのは物凄く作るの大変だってのも調べて
    判って来た。でも俺が乗れるオートバイはコレしかない
    と言うことも判った。だから手伝ってくれ」
狸穴:「俺は嫌だよ、家族にも言ってないんだろ」
蒋: 「……判った。では今夜、家族に話す」
狸穴:「大反対だろうな。特に奥方は」
蒋: 「カカァもちょっとはオートバイに乗っていたからきっと
    判ってくれると思う……」
狸穴:「なんだ! 奥さんオートバイ乗りか……テメー黙ってた
    な」
蒋: 「ヘタだから皆には言って無かったんだ。お前カミサン
    は?」
狸穴:「見りゃ判るだろ、いないよ」
蒋: 「優雅なもんだ」
狸穴:「馬鹿、30代までだよそんなこと言ってられるの。この歳
    で一人だと風当たりも強いときがある」
蒋: 「だろうな、銀行とかには普通にゃ見られない」
狸穴:「馴れたけどね」
蒋: 「っでオートバイ、何乗ってる」
狸穴:「アグスタ。……と言いたいところだけど、FZR250」
蒋: 「いいなぁ……」
FZR:「はじめまして、マスターの古いお友達ですか、珍しいで
    すね。FZRです」
蒋: 「お! 話せるのかその鍵……後で実体を見せてくれ。エ
    ンジン音聴かせてくれ」
狸穴:「大したことは何もしてないよ、とても静かでおとなしい」
FZR:「蒋様もオートバイと、お話出来る方なのですね。では
    後ほど」
狸穴:「FZRにおべっか使っても駄目。基本的に俺はサイド
    カーに乗ることは反対だからな」
蒋:「ツレナイねぇ……」

 蒋介石の偽足をみせてもらった。カーボンと金属を積層して使ってバネのように動く。軽い。凄い。
 散々、騒いでFZRを10分くらい見て蒋介石は自動車で帰って行った。
 その辺をちょっとだけ乗りたい、と言っていたがFZRは貸さなかった。
 シフトが上手くできないだろう。
 スタンドを跳ね上げて跨がってクラッチを握って、スロットルをちょっと煽っただけだ。
 ちょっと悲しそうで、でも楽しそうだった。

FZR:「マスター、サイドマシン造るのですか」
狸穴:「俺にはそんな技術は無いよ。蒋介石が勝手に思い込んで
    いるだけだ」
FZR:「蒋さん、わたくしに触って震えてましたよ」
狸穴:「昔からオートバイに乗る前は震えているらしい。気が強
    いのがタマに傷だ」

 蒋介石は工業デザイナーをやっているケツに、サイドマシンのデザイン画CGをたくさん描かせていた。
 ファイルの最後に黒い台紙付きで入れていた。まるでプレゼン資料だ。
 地上高を150ミリ取り、凄く薄い車体で平べったいデザインだった。
 シャフトドライブらしく、カー側にも動力をデフで伝えているのかと思ったが、あくまでもマシン側の後輪だけで駆動させるらしい。いずれなんとか免許が降りるようになったらカーを外せる構造にしたいらしい。
 考えるだけで、ソレは無理だと判ってもいるらしい。
 透視図に描き込まれたフレームは、どこかのビルダーが造ったモノをそのまま踏襲しているようだが、エンジンは描かれていなかった。

 《弐號》のこともサイドマシンのことも家族には話て良いが、昔の仲間や他には一切話さない方が良いと言っておいた。
 あっしにはその絵に描かれたサイドマシンを造る技術も無いしノウハウも無い。
 サイドマシンはオートバイとも自動車とも全く違う。
 家族がOKしても実際に造るとなったら、どこで製作するのか決めたりATのニーラーが日本の公道を走れる車検が取れるとも思えないし、エンジンを選ぶだけでも大騒ぎになるだろう。
 一応関係筋には聴いてみるが……。
 正式な図面を引ける奴を引きずり込まなければならないし、カウルやホイールなどの各部品の専門家を、新たに集めなければならない。
 時間も掛かるし、費用もトンでもない額になる。当然表の仕事にも影響して来る。
 奴は10数年オートバイを我慢して、それでも必死になって考えた結果があのデザイン画だったのだろう。
 いつでもケースに入れて大切に持ち歩いているらしい。
 あっしには奴の話を聴くくらいしか出来る事は無さそうだった。

蒋介石 マミアナ+FZR

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