Vol.114 ねじ 2000-12-XX


 1台のオートバイにはたくさんのネジが使われております。
 予備に付いているネジは1本もなく、全部用事があって付いているのだ。
 常に何かの過重が懸っているネジもあれば、ぶつけたり壊れたとき、また振動に絶えられるようにたくさん使われていたりしている部分も。
 一応FZRも不足なくネジは全部ついている。
 ただ、ちょっと年式が経っているため、ネジが錆びて見た目が汚い……。
 オートバイは、ネジが汚れるとなんとなく貧乏くさく見えてしまいます。
 力の大きく懸らない所だけでもステンネジにしてしまおうか? と考えたのだが、全部をやると、とんでもない金額になってしまう。
 で、要所だけステンのネジが入っています。

FZR:「わたくしの車体も始めのうちは結構ネジが緩んだりしました
   が、最近は全然緩みませ んね」
狸穴:「度重なる分解組み立てで、ちゃんとトルク管理しているか
    らね」
FZR:「ネジのトルクって大変ですか?」
狸穴:「ああ、たくさんあるから全部管理すると大変」
FZR:「いつもお世話掛けます」
狸穴:「エンジンのネジは結構管理は正確にやらないと、後で大変
    なことになったりするよ」
FZR:「たくさんついているのに……」
狸穴:「そ、たくさん付いていても全部規定のトルクで絞めないと、ケ
    ースが後から歪んだりヘッドが熱変形したりする」
FZR:「あんな塊が変形するのですか?」
狸穴:「熱だからねぇ……簡単に変形するよ」
FZR:「まぁ……わたくしのエンジンは大丈夫ですか?」
狸穴:「点検済みのトルクレンチ使って、OH後3万km近く走っ
    ているから完璧な筈」
FZR:「でも、ケース前の左側からオイルが若干滲んでます」
狸穴:「ああ、アレは組む際に液体パッキンの塗り斑があったか
    ら、滲んでしまっているのだ。問題はないよ」

 以前からFZRはそのことばかりを気にしているらしい。
 派手にポタポタ出てきてしまっている場合は、早急に直すしかないが、この程度ならば問題なし。
 50,000qを超えたらエンジン・ミッションの定期点検のために開けるから、その時に直す予定。
 オートバイには普段すぐに消耗するので、交換を気にする部分として、オイルを始めブレーキパッドやフィルター類などあるが、ベアリングなども実はちゃんと減るので、たまに点検しないと大変なことになったりするのである。
 以前、前スプロケットの奥にある、ミッションの軸受けベアリングが逝っている事に気が付かず、そのまま走って自分の吹いたオイルに乗ってひっくり返った人がいた。
 その他、スイングアームピボットの中のベアリングが錆びたあげく、焼き付いてガタつくアームで、"サスが壊れた〜"(なぜか嬉しそうにしてた)とサス交換に来た人もいたっけ……。
 あっしも若い頃にパリにいて(ちょっとカッコイイ?)一銭も金がなくなり借金も出来ず(カッコ悪〜)、オートバイ屋で働かせてもらったときに、そこで中古で買ったFZ750のフロント・アクスルシャフトが、前輪のベアリングの不調により振動と高熱を受け中玉がロックした瞬間にシャフトが折れた経験あり。

FZR:「そのときはどんな感じでしたか?」
狸穴:「恐ろしかったよ〜"ぎょえ!参ったなぁ"、って感じ」
FZR:「……そうじゃなくて!」
狸穴:「いやホンと、そこのバイク屋の16歳の娘と二人乗りでツ
    ーリング中、イタリアの高速道路で200km/h出てい
    たから、車椅子に乗るその娘を左足を引き摺りながら後ろ
    から押している自分の映像が頭を過った」
FZR:「転ばなかったのですか?」
狸穴:「それがなんと幸運なことに、積んでいた荷物が飛んでバラ
    ンスを取り直して立ち直れたから助かった」
FZR:「それでマスターは時々用事もないのに、わたくしのホイール
   を外してベアリングの状態を指で点検しているんですね」
狸穴:「んだ。もうあんな目には遭いたくない」

 実際に走行中にフロントのアクスルシャフトが折れる、もしくは緩むなんて事は早々あっては困るのだが、実際にあったのだ。
 手首は思いっきり捻挫するし、肩まで痛かったしコケそうになったときに左足を思いっきり衝いたので、膝や腰までおかしかった。
 なんとか途中の集落のホテルまで移動しても、そこの小さな街にはネジ・ベアリング屋はないし、オートバイ屋もない。
 イタリア語なんて話せないし……。
 困ったなあと思ったら、その娘の母親がイタリア系の人だったので、当然娘がしゃべりだし、なんと鍛冶屋を見付けてきて折れたシャフトを持ってそこの職長に何度か断られたが、それでも押し付けて溶接させていた。
 ベアリングも隣町にある事を聞き出して、次の日そこの車を借りて買いに行くことが出来た。
 なんと強気な娘だった。
 直したと言え、折れたシャフトじゃ心配なので、すぐに引き返したけれど。
 後で、あの時に何て言ったのかを聴いたら、
娘「私の旦那は、日本のGPライダーだから早く次のサーキットにテストに行かねばならない。あなた達も職人ならばこのボルトを直せる筈だ!」
 と、啖呵を切っていたらしい……。
 口も達者。
 職長はにやりと笑って、シャフトを持って奥へ消えていった。
 どこで困ってもすぐに部品が入る日本にいるあっしよりも、ずっとタフなのである。
 帰国前にオートバイ屋で得たお金を全部つぎ込み、そのFZ750をすべてOHし、転売を頼んで帰ってきたが、後日その娘がFZ750を自分のものにして20歳になった頃から乗っていたそうだ。
 いまでは二児の母になり離婚も2度して、まだ乗っているそうである。
 日本と違い、GPライダーの地位は市井でとても高く評価されていた。
 でも、16歳のパリから来た小娘が不思議なイタリア語で日本人を連れて、腰にグリスの付いた手を当てて胸を張って啖呵を切っていれば、鍛冶屋の職長も嫌だとは言えんよなぁ……。
 その少し長さの合わない寄木細工のように加工され溶接されたシャフトは、棄てずに今でもあります。
 FZRのキャラには、その娘が少しだけカブってます。

FZR:「そうでしたか……素敵なお方でしたか?」
狸穴:「それは、もう」

過日のオートバイ屋の娘 マミアナ+FZR

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